
相変わらず、今日も外に出ていなかった。
そそくさと着替えて、夕飯の支度を終えようとしていた母親の背中に「帰ったら食べるから」と告げて靴を履こうとしていると、「お好きにどうぞ」と母親の背中が応えた。
駅前のフレッシュネスバーガーまで歩いて、コーヒーだけを頼むと、席に着くなり文庫本を開いた。
時折、思い出したようにコーヒーを啜ったり、煙草を吸ったり。
優雅なのだろうか、怠惰なのだろうか。
第三者の目からすると、そんな僕の姿がどのように映っているのかなんてことは、小説の世界に没入しきっている僕のとって一ミリも興味がないことであるが、今こうして振り返ってみると、そんな自分の立ち居振る舞いや仕草がどんなものなのかを少しだけ知りたくなる。
これはきっと自意識過剰なんだろう。
一時間半ほどで小説を読み終え、いつの間にか空になった煙草や吸い殻の溜まった灰皿、申し訳ない程度にマグカップの底を焦げ茶色で覆っているコーヒーなどを順番に眺めてから、ふと店内の壁掛け時計に目をやると、20時半を回る頃だった。
忘れていた空腹感が突如全身を支配してきて、そのごく生理的な感覚は、小説の世界に片足を残したままだった僕の背中を強引に押し出したかのように、僕を一気に現実へと引き戻した。
帰り道。
途中にあるマンションの庭スペースを横切ろうとしたら、イルミネーションに彩られた木々が立ち並んでいた。
なんだか虚を突かれたような気分になって、茫然とそれを眺めていた。
「そういえばクリスマスなんだなぁ」なんてことをぼんやりと思い出すと、急に胸の内がざわざわとし始めて、パシャリと携帯電話で写真を撮って、足早にそのマンションを後にした。
夜空には灰色の雲が浮かんでいて、月に重なったり離れたりしている様子から雲がゆっくりと動いているのが分かった。
クリスマスなんて、クソヤローだ。
少しだけ欠けた月を睨みつけながら、僕は唇を尖がらせてそう思った。
♪今の気分的一曲
大好きな君に / 小田和正