五聯隊の編さんした「遭難始末」は、友安旅団長のはしがきで始まる。
「戦術の要は敵に勝つを以て足れりとせず。寒暑に克ち雨雪を凌ぎ困苦欠乏に堪うるの鍛錬素養ありて始めて捷を全うすべきのみ」
敵に勝つだけでは足りない、寒暑に克ち困苦に堪える素養が必要???
この旅団長は何を言っているのだ!
戦術とは戦いに勝つための方法であり、そこに精神的なものが入るはずもない。
「本年一月歩兵第五聯隊第二大隊田代に行軍し……天候の激変に会い稀有の惨禍に罹る……此日寒威厳烈風雪狂暴……天災なり」
関係する上級将校は誰もが「天災」としてこの事故を収めたかったに違いない。