自衛隊の図上戦術において最初にやるのが「状況の特質」だった。地域、情報、兵站、……等を考察して特質を把握する。

 いや違う、地図のはり合わせだ、地図(等高線)の色塗りだという人もいるだろう。

 

 私も遭難地域の等高線の色塗りから始めた

 そうすることによって地形が浮かび上がり、その特性が見えてくるのだった

 

 当時の状況を勘案しつつ白紙的に見て、地域の特性のみを考察すると次のとおり

 

田代(平)地域の特性

1 地形

(1) 田代(平)は八甲田連峰の北東にある高原(標高560メートルほど)

(2) 目標の田代新湯までの経路は田代街道のみで、約21.7キロ

(3) 田茂木野から馬立場までの経路は前嶽から田茂木野まで伸びる支脈の稜線上となる。馬立場から目標の田代新湯までは鳴沢、平沢(遭難地の図から)、大崩沢と三つの沢を越えなければならない。難所は小峠と鳴沢

(4) 馬立場と前嶽間は隘路となっていて、その経路は狭い範囲となる  

(5) 田代までの山々はことごとく伐採されはげ山状態

2 水系

(1) 田代街道の両側は東に駒込川、西に元小屋沢があり、深い沢、崖となっている。また、駒込川には2か所ほど比較的大きな滝がある

(2) 鳴沢、平沢、大崩沢は駒込川の支流である。中でも深い沢をなしているのが鳴沢である

(3) 駒込川は営所の近く(東約0.6キロ)を流れている

 

3 気象

(1) 1月下旬は一般に、強い寒気が上空にあり冬型の気圧配置が続く。八甲田山は雪雲に覆われ、雪の降る日が続き大雪となる。そこに山特有の風が吹くと積もった雪も吹き飛ばされ、地吹雪となって視界は白色となり、方向や地形がわからなくなる。

(2) 1月の最深積雪(平均)は、2.93メートル(データとして記録されている過去最深積雪は5.66メートル)※

(3) 1月の日最低気温(平均)は、マイナス10.4℃データとして記録されている最低気温マイナス18℃)※

 

※ 酸ヶ湯(標高約890メートル)のデータを利用、平均は1981~2010の期間、データーは1976年以降

 

4 積もった雪の性質

  一般的に、1月頃の雪は握っても固まらないパウダースノー状態で、圧雪しても固まらない。また、雪が柔らかいので足をとられ、歩きにくい

 

 これらのことから、簡単に思考すると、

 雪で登り、橇の曳行を考えると時速は2キロぐらいか、

 田代までは約22キロなので11時間かかる、

 15時には田代新湯に着きたいので遅くとも営所を4時には出発しなければならない……

 

 歩兵第五連隊第二大隊雪中行軍遭難顚末書によると、

 演習部隊は6時55分に営所を出発している

 

 五聯隊は、時速をいくらで計画したのか? 田代新湯の到着予定時間は?とすぐに疑問が浮かび上がる