涙雨 (前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

2月の末頃からやけに母の夢を見ていた。


不思議と夢を見て目を覚ますと夢の内容は忘れている。

その代わり母の若かりし頃の思い出が浮かんで来る。


母は、正義感が強く実直で厳しい面と暖かく優しい面を併せ持っていた。


曲がった事と卑怯者が大嫌いな母の思い出は、少々荒っぽく勇ましい面を思い出す事の方が多い。


例えば 小学校の運動会で父兄参加の二人三脚に出ていた母は、男性教師と組んで走っていた。


それまでトップを走っていた母と男性教師のスピードが突然落ちた。


その時おれ達は、衝撃的な場面を目撃した。


母が、いきなり一緒に走っていた男性教師の後頭部を平手でベシッと叩いた。

一瞬の出来事で児童達は、目を疑った。


おれの後ろに居た同級生が「今お前のお母さん先生の頭を叩いたか?」と聞いて来たがおれは「いや見てない そんな訳ないだろ」と言った。


しかし最前列で観戦していたおれの耳には「バカか?!」と言う母の声が聞こえていた。


帰ってから母に事情を聞いたらあろう事かあの男性教師は「後ろから校長とPTA会長組が来たから先に行かそう」と言ってわざとスピードを落としたそうだ。


「そりゃ叩かれて当然だ」とおれは、手を叩いて大笑いした。


おれの母とは、そう言う人だった。



3月に入って間も無く 母が入院している病院から電話があった。



後編に続く