ダークヒーロー ビギニング vol.8 | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

転校生の怒りの叫び声と共に形勢が逆転した。


彼に絡んでいた5人の内3人は、瞬く間に正拳突きと膝蹴りと肘打ちの餌食になった。


残りの2人は、壁を背に震え上がっていた。


転校生の怒りは治まらず壁の男の1人の胸倉を掴んで何か言っている。


もう1人の壁の男は、転校生に何か必死で訴えていた。


おれは、思った通りの展開に少し爽快な気分で眠気が失せた。


だが、おれの爽快な気分もそこまでだった。

あろう事か転校生が、鬼のような形相でおれの方に歩いて来た。

そしておれの肩を掴んで「他人事みたいな顔してんじゃねぇ!」と凄い剣幕で怒鳴った。


おれが、彼の手を振り払って立ち上がり「何の事だ?」と聞くと彼は「これまでのぼくに対する悪さは、全部お前の企みだろう!」と普段の紳士的な言動とは逆に乱暴に吠えた。


「何言ってやがる おれは転校生を痛め付けて喜ぶ程暇じゃないぜ」とおれは呆れて言った。

「だって暇そうじゃん!」と転校生は食い下がった。

おれが「あ そうか」と納得しているとあいつは、おれの胸倉を掴んで来たのでおれは、その手首を掴んで捩り上げてあいつの背中に固定し そのまま転校生に悪事を働いていた5人組の所へ連行した。

そして「こいつにバカな嘘吹き込んだのは、お前らか?」と殺気を込めて聞いた。


5人組は「ヤバい!」と教室の戸口に向かって逃げて行くのでおれは転校生から手を放して傍にあった椅子を思い切り投げて奴らの逃げ道を塞いだ。


このおれの行動を見た転校生は「疑ってごめんね」と言いながら恐怖で固まっている5人の所へおれと一緒に歩いて行った。


おれ達が、手を組んだと見て5人は、平伏して謝った。


おれは「ああ もう鬱陶しい おれは、お前らに構ってる程暇じゃない」と言い捨てて自分の席に戻ろうとしていた。

すると転校生が、小走りで追って来て「でも 暇そうじゃん」と言って笑った。

「うるせぇ 学校て所は、暇にしてるのがけっこう難しい所なんだ」とおれは、ふて腐れて言った。


その事件を機に転校生とおれは、仲良くなり あいつは、おれに勉強を教えてくれたり おやつを奢ってくれたりした。

おれは、あいつに学校での快適な昼寝の仕方や関西人特有のボケとツッコミを教えてやった。


時は流れ あいつは、一年の3学期まででまた引っ越す事になった。


最後にあいつと帰宅時に話した時「ぼくは、父さんに空手習ったけど君ってデタラメに強いけど誰かに武道とか習ってるの?」とあいつが聞いた。

「いや おれのは自己流だ おれは武道なんて習う程」とまでおれが言うとあいつが「暇じゃないか?」と言って笑ったのでおれも笑った。


「君みたいに変な奴と友達になれて良かったよ 元気でな」とあいつは急に真顔で言った。


「ああ お前もな」とおれも言ってお互い別の方向へ帰って行った。


その後二年生になりクラス変えになったが、一年生の時以上に気の合う奴が少なそうだった。


おれは、またいつものように一人で窓の外を眺めていた。

その時後ろであいつの笑う声が聞こえたような気がして振り向いたが、そこにあいつは居なかった。


春風にカーテンが揺れているだけだった。