胴着の選び方 | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

おれが、師範になった時から30年以上着ている柔道着は、破れや擦り切れが酷くなりゾンビの服のようになって来た。


そこでそろそろ新しい胴着に着替える事にした。


販売店に行っておれは店主に「初心者が着るような すこぶる着心地の悪い柔道着ありますか?」と聞いた。


10年位前から武道関係の買い物は、いつもこの店でするので店主とは顔なじみだ。


「お弟子さんが買われるのですか?」と店主が聞いた。


「いや おれが着るんだけど」と言うと店主は「師範があれを着るんですか?」と不思議そうに言った。


そして100%綿素材ですこぶる着心地の悪い柔道着は、現在では製造されていなくて最近の柔道着は新品の内からソフトで軽く着心地も悪くない代物になっていると教えてくれた。


おれは「すこぶる着心地の悪い柔道着が、自治の体形や動きに馴染んで行く過程が大切だし楽しみでもあると思いますがねぇ」と詰まらなそうに言った。


「なるほどなぁ 先生の言ってる事は分かりますが時代の流れには逆らえないですから」と店主は、少し困った顔で胴着のカタログのページをめくって行って「これどうです?100%綿素材で評判の悪い合気道着がありますよ」とおれにカタログを見せてくれた。


「評判が悪いってのが気に入ったね 丈夫ならそれにする」とおれが言うと店主は「丈夫だと思いますが ただ着心地があまり良くないみたいです」


「よし決めた それにする」とおれはあっさりその評判の悪い合気道着に決定した。


「やれやれ・・・」と店主は呆れたような安堵したような薄笑いを浮かべた。


おれの価値観やこだわりは、偏屈の域に達しているのかも知れない。


しかし武道と言うのは、こんな偏屈な価値観やこだわりのある奴の技に限って妙に切れ味が鋭いのも事実だ。