土下座(後編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

おれは、基本的に一人で行動する。
小柄で細身だが態度が大きいので土下座させたがる奴らの標的になりやすい。

だがおれは、絶対に土下座なんかしないし した事もない。


昔 アルバイトで勤務していたある会社の社員が、おれが10分遅刻した時
「皆の前で土下座しろ」と馬鹿げた命令をした。
この社員は、自分の気に入らないアルバイトを難癖付けていびる事で知られていた。

その男は、扱い難いおれを嫌っていたが、おれも初めて会った時からそいつが気に食わなかった。

おれは、その社員に言った。
「遅刻したのは謝りますが たかが遅刻で土下座なんか出来ないねぇ」するとその社員は「何や お前!」とおれの胸ぐらを掴んで来た。 

おれは「おれに土下座させたかったら おれに土下座して下さいとおれに土下座して頼め!」と言いつつ胸ぐらを掴んでいる手を手刀で撃ち落とすように振り払った。

この時おれが八光流柔術を身に付けていたら間違いなく胸押捕りを掛けていただろう。

だが、そんな技を使うまでもなくその社員は、おれに打ち払われた手首が余程痛かったのか2、3歩下がり何か言ったが声が上擦って何を言っているのかよく分からなかった。

おれは「ギャーギャーうるさい」とだけ言ってそのまま仕事についたが例の男は、何処かへ消えていた。

おれは、その3時間後クビになった。
いつの間にやら おれが社員に暴力を振るった事になっていた。

おれは、挨拶もせずその会社を出たが別に何の未練も無かった。


その日 いつもより早く帰宅したおれを黒い愛犬が嬉しそうに出迎えてくれた。