たこ焼き屋救出作戦(後編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

おれに事情を話すと たこ焼き屋は、ぐったり座り込んだ。
おれは「ちぇっ 自業自得だぜ」と舌打ちしたもののここは、手を貸してやる事にした。

たこ焼き屋と2人じゃどうしようもないので人手を集めるしかない。

夜遅くに道行く車を止めるのは難しい。
おれは、道の真ん中で八光流の撞木の構えで車を止めようとしたが車はおれの横をすり抜けて行った。

片手を前にかざすような構えなのでつい癖が出てしまった。
「そんな事したら余計車が逃げてしまうがな」とたこ焼き屋が困り顔で言った。

結局 両手バタバタ戦法で車を数台止めて協力を頼んだ。
野次馬を含めて20人程集まった。

パワーのありそうな事とたこ焼き屋の軽バンを繋ぎ引っ張らせておれを含めた数人が側溝に入り車体を持ち上げて遂に軽バンはポコッと路上に出た。

夜中の1時になっていた。

たこ焼き屋が、泣かんばかりに感謝して「皆さんありがとう 今度来てくれたらたこ焼き只にするから名前を書いて帰って」と言った。

軽バンの救出作業をしたのは、6人だったが名前を書く為にたこ焼き屋の周りに集まったのは、野次馬も含めて20人程だった。

おれが、自分の車に乗ろうとした時 たこ焼き屋の「あれ?一番最初に止まってくれた黒い服の人は何処行った?」と言っているのが聞こえた。
そして「絶対に顔忘れないからたこ焼き食べに来て!」と居所の知れないおれに聞こえるように大声で言った。

おれは、車に乗り込んで「それをせぬのが武士ってもんだ」と言いつつ車をスタートさせた。

頭上の月の光が、おれの疲れを癒やしてくれていた。