薄笑い (前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

道場を開いて2年経った頃 その日は、参加者が少なく おれと1人の弟子の2人だけで練習していた。

そろそろ終わろうとした時 殺気に似た嫌な気配を感じて振り向くと怪しげな男が、道場に入って来た。

その男は、痩せ形でブカブカの黒っぽい服装が異様なムードを醸し出していた。

「見学させて下さい」と男は言った。
おれは「もう終わるとこだったけど せっかくだから少しだけ見せましょうか」と弟子を相手に2、3の技を見せてやった。

ブカブカ服の男は、妙に余裕ありげに おれの技を見ていた。
彼は、口元に薄笑いを浮かべていた。

おれは、何となく不快感を覚えた。
「何か武道をやってるんですか?」と聞くと「いいえ 別に」と男は薄笑いを浮かべたまま答えた。

男は、唐突に「私の胸ぐらを掴んでみてもらえますか?」と言って来た。

おれが見せた胸押さえ捕りと言う技に興味を持ったのかとおれは思ったが この男は、そんな素人でも甘い奴でも無かった。


後編に続く