以前の記事 で、
実質返戻率を使うのはおかしい、
という話を書いたのですが、
その理由は長くなるので、書いていませんでした。
今回は、
「実質返戻率を使うのがおかしい理由」
を書いていこうと思います。
▼実質返戻率を使う根拠として
よく言われているのが、
「確かに、保険を解約すると利益が出る。
でも、退職金、大規模修繕などの
多額の経費計上時点とタイミングを合わせることで、
結果的に、保険解約時に税金がかからない。
だから、実質返戻率を使うのが正しい」
というロジック。
もっともらしく聞こえると思うのですが。
でも、これ、合理的でないのです。
なぜか?
それは、
翌年以降のことを考えていないからです。
▼例えば、
a)保険料計上「前」の利益が毎年20
b)5年後に、80の費用支出が見込まれている
という会社で、
下記の保険に加入するとしましょう。
c)保険料が毎年20(×4年)で、
全額、損金計上可能(=税務上も費用計上可能)。
d)解約返戻金を、5年後に60 受け取れる、
この保険の実質返戻率は、
税率40%と仮定すると
60(返戻金)
÷{80(保険料累計)-80×40%(税金減少額累計)}
=125%
となるので、
これは、実質返戻率125%の保険です。
でも、
この保険に加入するのが有利なのでしょうか?
▼論より証拠。
実際、計算をしてみましたので、
比較をしてみてください。
保険加入した場合の利益・税金
区分 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 累計 |
---|---|---|---|---|---|---|
a)経常利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 100 |
b)見込支出 | - | - | - | - | △80 | △80 |
c)支払保険料 | △20 | △20 | △20 | △20 | - | △80 |
d)受取保険金 | - | - | - | - | 60 | 60 |
税引「前」利益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
法人税等 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税引「後」利益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
保険加入しない場合の利益・税金
区分 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 累計 |
---|---|---|---|---|---|---|
a)経常利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 100 |
b)見込支出 | - | - | - | - | △80 | △80 |
税引「前」利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | △60 | 20 |
法人税等 | △8 | △8 | △8 | △8 | 0 | △32 |
税引「後」利益 | +12 | +12 | +12 | +12 | △60 | △12 |
※どちらの表も、符号は「+:利益、-:損失」です。
例えば「税金 △8」は、
税金を「8だけ支払う」という意味です。
薄赤色のセルを比較すると、
確かに、保険加入しているほうが、有利なようにみえます。
▼でも、
このシミュレーションをさらに5年間伸ばしてみると、
どうなるでしょうか?
保険加入した場合の利益・税金
区分 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 | 10年累計 |
---|---|---|---|---|---|---|
a)経常利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 200 |
b)見込支出 | - | - | - | - | - | △80 |
c)支払保険料 | - | - | - | - | - | △80 |
d)受取保険金 | - | - | - | - | - | 60 |
税引「前」利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 100 |
法人税等 | △8 | △8 | △8 | △8 | △8 | △40 |
税引「後」利益 | 12 | 12 | 12 | 12 | 12 | 60 |
保険加入しない場合の利益・税金
区分 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 | 10年累計 |
---|---|---|---|---|---|---|
a)経常利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 200 |
b)見込支出 | - | - | - | - | - | △80 |
税引「前」利益 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 120 |
法人税等 | 0 | 0 | 0 | △8 | △8 | △48 |
税引「後」利益 | 20 | 20 | 20 | 12 | 12 | 72 |
ご覧の通り、
損得が逆転してしまいました!
ポイントは、薄オレンジ色の部分。
保険に加入した場合には、
通常通り税金を払うことになります。
ところが、
保険に加入しなかった場合には、
5年目に大きな損が出ているため、
6年目~8年目に利益が出たとしても、
納税額が0になります。
その結果、
10年間累計で見ると、
保険に入っているほうが不利、
という結論になってしまうわけです。
累計保険料支払額よりも、
受取保険金が少ないのですから、
保険に加入していたほうが
損をしているのは当たり前です。
結局、
実質返戻率を使うのがおかしい理由は、
保険を解約した後の年度のことを
考慮に入れていないから
です。
ぜひ、参考にしてください。