ガトリングガン・アリス⑤
○ 数十分後、森の中
フランが鍋でトカゲを煮ている。愛莉は座って、コーヒーを飲んでいる。アリスは煙草をふかしている。
フラン「落ち着いたかい?」
愛莉「はい、ありがとうございます……」
フラン「おなかもすいただろう?」
愛莉「い、いえ…」
フラン「あれ、トカゲのビル嫌い?」
アリス「乙女はそんなグロテスクなもの食べないのよ。」
フラン「でもアリスは大好物じゃないか?」
アリス「私は超乙女ですもの。」
フラン「なんだい、その頭の悪い名前は…大体アリス、君はもう乙女って年じゃ…」
アリス「超乙女パンチ!」
ハンドバッグから取り出した拳銃をフランに撃つアリス。咄嗟の判断で避けるフラン。
フラン「パンチって言ったよね、今!?」
アリス「乙女の拳よ」
フラン「銃が抜けてるよ!」
アリス「あら、ごめんなさい。」
フラン「まったく、アリスは…」
アリス、フランの頭に銃口を突きつける
アリス「次は外さないわ。」
フラン「確信犯!?」
愛莉「ふふふっ…」
フラン「笑い事じゃないよ、もう。」
愛莉「(照れて)あ、すいません……」
アリス「いいのよ、あなたやっぱり笑ったほうがかわいいわ。」
愛莉「そ、そうですか…?」
アリス「ええ、本当よ。こんな状況じゃ、満足に笑えないでしょうけど…私、好きよ。あなたのそういう顔。」
愛莉「…今だったら少し笑えそうな気がします……なんだか不思議なんです。」
フラン「不思議?なにがだい?」
愛莉「アリスさんやフランさんと話してると……なんだかお姉ちゃんとお兄ちゃんを思い出して…すごく安心するんです。」
アリス「(若干、戸惑って)……そう」
アリス、煙草に火をつけようとしてやめる。
愛莉「私には兄と姉がいたんです。小学生の時に行方不明になっちゃいましたけど…」
アリス「……そう」
愛莉「大好きだったんです、兄も姉も。いなくなっちゃって苦しくて、悲しくて……だから、妹達にはこんな思いさせたくなくて……ううん、私怖いんです。傍にいなくちゃ、いいお姉さんでいなくちゃ、また家族がいなくなっちゃうんじゃないかって……」
アリス「そう……」
愛莉「でも私……全然いいお姉ちゃんじゃないんです。さっきも取り乱しちゃったし…アリスさんに甘えちゃったし…」
アリス「いいのよ、甘えても。私はあなたより年上だし。」
愛莉「え、そうなんですか?」
アリス「そうよ、私はあなたよりお姉さんなの。だから存分に甘えなさい?」
愛莉「アリスさん……やっぱりアリスさん達はいなくなったお姉ちゃん達になんだか似ています…まるで願いが叶ったみたいです…」
アリス「……そう。」
愛莉「アリスさんは辛くないんですか…?」
アリス「そうね、辛いし、痛いわ…でも私には守るべきものがあるからがんばれるの。」
愛莉「守るべきもの…?」
アリス「そうよ、それに私達も1000のフリークスを倒せば、元の世界に帰れるし…」
愛莉「そうなんですかっ!?」
アリス「ええ、だから心配しないで……」
赤頭巾「ういっくっ…みぃつけたぁ…」
無数の狼ゾンビが生えてくる。
愛莉「きゃぁぁぁぁっ!!」
アリス「私の後ろに隠れなさい!」
拳銃を取り出し、迫り来るゾンビを撃ち殺していくアリス。
フラン「多い!数が多すぎるよ、アリス!」
フランも手品のように取り出したチェーンソーで応戦するが、押され気味である。
アリス「出てきなさい赤頭巾!」
赤頭巾の声だけがする。
赤頭巾「いやぁよぉ、かよわいかよわい赤頭巾ちゃんはぁ…狼さんのお腹の中でぶるぶるふるえてるのよぉ…」
アリス「アル中なだけでしょっ!フラン!」
フラン「いくよ、アリスっ!」
フランが取り出したガトリングガンを空高く投げる。周りにいる狼ゾンビを撃ちながら空高く跳躍し、ガトリングガンを両手で抱える。轟音と共に地面に降り立ち、乱射。蜂の巣になっていく狼ゾンビ。しかし撃っても撃っても狼ゾンビは地面から生えてくる。
アリス「きりがないわね……フラン!あなた自爆とか出来ないの!?半径5キロくらい吹っ飛ばす奴!」
フラン「それ、僕も君も死ぬよね!?」
じりじりと追い詰められる三人。
愛莉「いやぁぁぁぁっ!」
アリス「愛莉っ!?」
アリスと愛莉の間に狼ゾンビが現れる。咄嗟にガトリングガンを投げ捨て、愛莉を庇う。拳銃で狼ゾンビを撃ちぬく。
アリス「大丈夫、愛莉!?」
愛莉の肩を掴むアリス
愛莉「(呆然と)あ、あれ…な、なんで、わ、私の名前を……」
フラン「アリス、危ないっ!」
赤頭巾「はぁい、こんばんわぁ…」
撃ち殺した狼の腹を割いて、赤頭巾が出てくる。そのままナイフを振るい、アリスの腕を切り裂く。弾き飛ぶアリスの腕。切られた包帯が風に吹かれ乱れ飛ぶ。
愛莉「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
アリス「くっ……」
愛莉を片手で抱え、逃げるように後ろに跳躍するアリス。
フラン「アリスっ!?」
赤頭巾「あらぁ?あらあらあらぁ…?」
アリスの片腕を掴みあげ、しげしげと眺める赤頭巾、ワインを呷る。
赤頭巾「これはぁ……なぁんだ、あなたもフリークスなんじゃなぁい……」
手に巻かれた包帯がぱらぱらと落ちてゆく。現れたのはツギハギだらけの人形の腕。
愛莉「あ、アリスさん…な、なんで血が…そ、それにその腕……」
赤頭巾「あらあらあらぁ…不死身のアリスは不死身の化物だったのねぇ…すぅっかりだまされたわぁ……」
愛莉「あ、アリスさん……あ、あなた人間じゃ………」
アリス「あ、愛莉…わ、わたしは……」
愛莉「な、なんで私の名前知ってるんですか…?い、言ってないですよね…?」
アリス「それは…」
赤頭巾「ってことはぁ、あなたが本当のアリスなのかしらぁ?」
愛莉「え……」
赤頭巾「あなたフリークスっぽくないしぃ…あなた達、アリスを独り占めして、殺すつもりだったのねぇ…」
愛莉「うそ……」
フラン「愛莉ちゃん、違うっ!こいつの話を聞くんじゃないっ!」
赤頭巾「うるさいわぁ…」
赤頭巾がワインを差し向け狼ゾンビを放つ。
フラン「くっ!」
不意をうたれ、チェーンソーを落とすフラン。咄嗟に襲い掛かる狼ゾンビを長い袖の下でなぎ払う。袖の下から医療器具でデコレーションされた異形の腕が現れる。腕に触れた途端消滅していく狼ゾンビ。
愛莉「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
赤頭巾「あらぁ、こわぁい…」
フラン「あ、愛莉ちゃん、これは…」
愛莉「こ、こないで!」
フラン、立ち止まる。傷ついた顔をしながらも近くの狼ゾンビを切り倒すフラン
赤頭巾「うっふふぅ…ひっく。バケモノが嘘をつくのは当たり前じゃなぁい…狼のあまぁい罠に誘われたオンナノコをぱっくんと食べちゃうのよぉ。キャハハハハハっ!」
フラン「黙れっ!アリスとお前を一緒にするなぁっ!」
フラン、狼ゾンビ達を蹴散らしながら赤頭巾の元へ走りよる。異形の右手が赤頭巾を捉えるがすんでのところで消えてしまう。
フラン「ちっ!」
木の上にいる狼ゾンビから現れる赤頭巾。
赤頭巾「残念でしたぁ…」
フラン「逃がすかよっ!」
異形の腕からメスを飛ばすフラン。それを跳躍で避けながらアリスの片腕を投げる。
赤頭巾「じゃあねぇん…。」
逃げる赤頭巾。腹を突き破られた狼ゾンビが木から落ちてくる。
愛莉「あ、アリスさん…な、何かの間違いですよね…?あ、アリスさんは…嘘なんかつかないですよね…?」
フラン「愛莉ちゃん、僕らは…」
アリス「フラン。」
フラン「アリス、でも…」
静かに首を振り、切り離された腕を拾うアリス。包帯を片手と口で綺麗に巻き直す。
愛莉「そ、その腕……アリスさんは…に、人間って言いましたよね…?」
アリス「…見ての通り、私は化け物よ。」
愛莉「……嘘をついてたんですね。」
フラン「違うんだ、愛莉ちゃんっ!」
愛莉「うそつき……」
アリス「愛莉……」
愛莉「わ、私を殺すんですか…?」
フラン「違うっ!僕たちは…」
愛莉「信じてたのに…また嘘をつかれちゃった…ずっと一緒にいてくれるって言ったのに…」
フラン「あ、愛莉ちゃん……」
よろよろと愛莉の傍に行くフラン
愛莉「近寄らないで、化け物!」
傷ついた顔で立ち止まるフラン。アリスは悲しげに愛莉を見ている。
愛莉「(二人の様子を見て怯む)わ、私…」
アリス「そうよ、私達は化け物で…あなたに嘘をついた…あなたが私を信じられなくてもしょうがないわ。」
フラン「アリス……」
愛莉「わたし、私………っ!!」
愛莉森の奥に走り去ってしまう。
フラン「愛莉ちゃんっ!!」
フランは駆け寄るがアリスに裾を掴まれ、立ち止まる。
フラン「莉那……」
アリス「その名前は捨てたでしょ、刃莉。私はもう……お姉ちゃんじゃないのよ。」
フラン「でも…」
アリス「…いるんでしょ、兎。あなたと話があるわ。」
ガトリングガン・アリス④
○ 森の中。愛莉が目覚める。愛莉はア
リスに膝枕をされている。
愛莉「ん、んぅ……」
アリス「おはよう、よく気絶できた?」
愛莉「わ、わたし……ば、化け物は!?」
愛莉起き上がり、周りを見渡す。アリスはハンドバッグから煙草を取り出し火を点ける。
アリス「しばらくは追ってこないわ。」
愛莉「しばらくって……また、あんなのが襲ってくるんですかっ!?」
アリス「赤頭巾だけじゃない。ここの住人はすべて怪物達。そのほとんどが私の命を狙ってるわ。」
愛莉「ここは…一体なんなんですか!?私はどうしてここにいるんですか!?あなたは……いったいなんなんですか………」
アリス「…あなた、兎に会ったでしょう?」
愛莉「兎ってあの着ぐるみ…?」
アリス「やっぱり…このフリークスランドの住人はね、元はみんな人間よ。」
愛莉「な、なんでバケモノに…?」
アリス「穴に落ちる前に願いを聞かれたでしょう?兎は穴に落とした人間を化け物に変える。化け物はある条件を満たすと、人間に戻って願いを叶えてもらえる。それがこの世界のルールよ。」
愛莉「条件?条件ってなんですか……?」
アリス「アリスを殺すこと。」
愛莉「え……?」
アリス「私はアリス。このイカれた不思議の国、唯一の人間。その私を殺すことがこの世界から脱出する唯一の条件よ。」
愛莉「なんで…そんな………」
アリス「理由なんてしらないわ。それが兎が決めたルールだもの。」
愛莉「そ、そんな…私は帰らなきゃいけないのに…絶対に帰らなきゃいけないのに…」
愛莉、ふらふらと森の方へ歩いていく。フランが奇妙なトカゲを抱えてやってくる。
フラン「いやぁ、狩った、狩った。今夜はアリスの好きなトカゲのビル煮さ…ってお嬢ちゃん、夜の一人歩きは危ないよ?」
愛莉の肩に手をかける
フラン「いやっ!私は帰るのぉっ!!」
フランの手を払いのける愛莉。トカゲが逃げ出す。思わず愛莉の腕を掴むフラン。
フラン「この先は獣がたくさんいるんだよ?それに赤頭巾だっているかもしれないし…」
愛莉「やだぁっ!帰るの!!妹と弟の所へ帰して、帰してよぉっ!」
掴まれた手も払い、ぺたんと座り込む。
愛莉「莉玖と紗莉菜の所へ帰してよぉ…」
子供のように泣き出してしまう愛莉。フランは気まずそうにしている。アリスが愛莉の傍により、優しく抱きしめる
愛莉「あ…」
アリス「大丈夫よ、私達があなたを元の世界に、姉弟達の所へ帰してあげるわ。」
愛莉の頭を撫でる。安心したようにアリスの小さな胸に顔をうずめる愛莉。
愛莉「うぐっ、ひぐっ…うぁあ……」
アリス「よしよし…」
愛莉「怖い、怖いよぉ…もう会えないの?莉玖と紗莉菜に会えないの?私、決めたのに。ずっと傍にいるって決めたのに。お姉ちゃんだから、私はお姉ちゃん達みたいにいなくならないって決めたのに……」
アリス「大丈夫、大丈夫よ。あなたはいいお姉ちゃんよ…絶対に帰してあげるから……だから………泣きやんで……」
愛莉「うぇ、うぇぇぇ……」
ガトリングガン・アリス③
○ 暗い部屋。
5、6歳くらいの愛莉が泣いている。
愛莉「お母さん…なんで死んじゃったのぉ」
刃莉、莉那が現れる。
刃莉「愛莉ちゃん…」
愛莉「お兄ちゃん、なんでお母さんしんじゃったの?もう、お母さんと会えないの?」
刃莉「それは………」
莉那「お母さんとは二度と会えないわ。」
刃莉「莉那っ…!」
愛莉「ふぇぇ…お母さぁんっ…!」
莉那「でも、私は傍にいる。」
莉那が愛莉を後ろから抱きしめる。
愛莉「お姉ちゃん……?」
莉那「私は愛莉の傍にいるわ。だって、私は愛莉のお姉ちゃんだもの。」
刃莉「莉那……」
愛莉「お姉ちゃんはお母さんみたいに死んじゃわない?いなくならない?」
莉那「お姉ちゃんは死なないわ。」
愛莉「本当…?」
莉那「ええ。いい、愛莉。お姉ちゃんは、愛莉のためだったらどこまでも強くなれるわ。だからいなくならないし、死なないの。」
愛莉「お姉ちゃん、あのね、あのね。」
莉那「なぁに、莉那。」
愛莉「………うそつき。」