【小説】正義のハシクレ② | 派遣式ZIPPER

【小説】正義のハシクレ②

『株式会社 ジャスティス・コーポレーション』

 

 主な事業は正義の味方の派遣事業。


文字通り、正義の味方を派遣する仕事だ。


顧客はもちろん悪の組織。


悪の組織の発注がなければ正義の味方に仕事はない。

 

 悪の組織といっても、別に反社会組織というわけではない。

 

悪の組織法――正式名称『特定反社会組織対策法』に基づき設立された国営事業の請負会社だ。

 

悪の組織法は日本が反社会組織に襲われた事態に備えて、国自ら国民に予行練習をさせてしまおうという荒唐無稽な法律である。



成立当初はテロリスト対策として国民に避難訓練をさせるような法律だったのだが、今ではすっかり意味合いが変わってしまっていた。


 擬似テロリストはテレビで見るような悪の組織と形を変え、国民を楽しませるために派手なパフォーマンスを行うようになったのだ。


避難訓練はエンターティメントとなり、悪の組織法は国民が非日常な刺激をリアルに体感する為の法律となり変わった。

 

 悪の組織がいるのならば、正義の味方もいなければ盛り上がらない。

 

大衆が求めているのはテレビで見るような非日常をもっと身近に体験することだったから。

 

 そうして、悪の組織を倒すための正義の味方が生まれた。

 

悪の組織の依頼を元に、正義の味方が活躍するリアルなショー。

 

悪の組織は国から補助を受け、各地で悪事と言う名のパフォーマンスを行う。

 

 事前に悪の組織から発注を受けていた正義の味方が現場に駆け付け、打ち合わせ通り悪を倒す。国民はその戦いを楽しみ、様々な関連事業に金を落とす。

 

 今や、悪の組織と正義の味方の戦いは日本を代表する一大エンターティメント事業となっていた。

 

 俺が入社した『ジャスティス・コーポレーション』も悪の組織に発注を受け、正義の味方として悪の組織と戦いという名のショーを行う企業だ。

 

戦隊系ヒーローを多く抱え、顧客も大規模な組織が多い。

 

大規模なプロジェクトだと巨大ロボなんかを使うこともある。この業界じゃ、まぁ、そこそこ大きな会社だろう。


 俺が支援を担当する『東京レンジャー本部』はうちの会社の中でも稼ぎ頭の部隊で、テレビで放送されるくらいの大きな戦いをいくつも受注している花形部署だ。

 

 俺の仕事は主に『東京レンジャー本部』の仕事――悪の組織との戦いをサポートすること。

 

 ただ、サポートすると言っても武器を開発したり、市民に被害が及ばないようにするなんて仕事じゃない。それは別の部署が担当している。

 

 俺がするのは主にプロジェクト推進支援業務。仕事の状況管理や顧客(=悪の組織)との関係がうまくいっているか、継続的な受注は取れているか、受注金額に対して赤字になっていないか等、仕事がうまくいっているか管理、支援する仕事だ。

 

 正義の味方といえども商売だ。儲けがでなきゃ意味がない。

 

ある意味正義の味方の商業的な部分を支える仕事だ。


 ……まぁ、うちの会社で営業と同じくらい正義の味方っぽくない仕事なんだけど。


 ぶっちゃけ、うちみたいな正義の味方なんてやってる会社に入社する人には一番人気が無い部署だ。俺が入社した時の希望調査でも断トツの希望最下位だったらしい。


 でも俺は配属希望調査の時、この部署を第一希望にした。


正義の味方専攻の大学を出て、ヒーロー職で入社したのにも関わらずだ。


 だって、俺は肌で感じてしまったから。


 俺はなりたかった“正義の味方”なんかには絶対になれないってことに……