東京都/中野区「都立家政駅」界隈の無人化見聞録-5から更に先へ進むと、この無人の建物があった。

旧「稲毛屋」なる「うなぎ屋」さんだった。然したる記憶ではないが、嘗てどこかで同じ屋号のうなぎ屋で鰻丼を食べた記憶が薄っすらとある。うなぎ屋で「稲毛屋」はある種「一流」の証だったのだろうか。

 

ウナギ屋の無人化もこの見聞録ではよく見かける。

確かにうなぎは美味しいが、もうずっと前から私の日常にはそぐわない食べ物になっている。だから別に食べなくとも何とも思わない。今年は「土用の丑の日」が2度あるらしいが、そんなものが2度あろうが3度あろうが何一つ関係ない。豚肉の細切れがもう少し安くなってほしいだけだ。

 

そういえば、若いころ、新宿の場末で飲み屋の雇われ店長をしていたころ、絵に描いたような「うだつの上がらないサラリーマン氏」がたまにやってきていた。

そやつの口癖が「うなぎ喰いたいなあー」だった。

学校図書などの外回り営業をしている中年男だったが、いつも売り上げが悪いと上司に叱られているとボヤいていた。

昼食は駅近くの立ち食いソバ屋ばかりで、月に1度だけうなぎを食べるのが唯一の楽しみと云っていた。

うなぎを食べた後はやる気が出るが、それより上司から威圧の方が遥かに強烈で、安い鰻丼では一日か二日しか元気は持たないと、ボヤいていた。

そうして、退職金が出たら、毎日鰻丼を食ってやるんだとも・・・。

だが、その男の願望は叶えられず、定年退職を目前に控えた、寒い真冬、心臓の病気で急死したと、元の同僚の一人が教えてくれた。別に知りたいほどの間柄ではなかったのだが・・・。

 

こうした看板を見ても、もう鰻丼の味がどんなものだったのかすらあまり思い出せない。

撮影日:令和6年6月15日