みずから商品価値を「下げる」ような仕事をさせられちゃう時 | 三菱ジープの断酒日記

三菱ジープの断酒日記

千葉県柏市在住、2021年7月3日になれば70歳です。中国在住の日本語教師だったのは昔。他のアルバイトも昔。騒々しい人生で家族に心配と迷惑を掛けてきましたが、やっと落ち着き……と思うと、また新しい「迷惑」が……。

 「中国に絵葉書はない」という表題の、日本語教師さんのサイトをよく訪問します。

 つい先日まで中国・常州におられたのだけど、日本へ帰ってぐっと多忙になったらしく、以前ほどひんぱんに記事が更新されなくなりました。ボウフラはしょうしょう寂しいのであります。

 さて、そのサイトにいわく「授業は商品である。」

 お説ごもっともと思います。授業も、試験も、そして教師も、商品である、と思っております。シビアに、それを「売って」何千元かの給料をもらっております。中国では給料のことを「薪水」という。なるほど、昔は現物支給だったのだ。「工資」という言い方もある。こっちのが近代的であります。

 

 もう、いつのことか、どの学校で授業をしていた時のできごとか、すっかり忘れているのですが、こんなことがありました。

 午前の遅い時間帯、とつぜん日本外教担当助理さんから電話がかかってきて、「今日が前期の中間考査の成績の入力締め切り日です。」

 ええっ、中間の試験をやることさえ聞いていない、試験問題作っていない、平常点をまとめることもしていない。

 そう返事したときの相手の返事は、どの学校でも奇妙に共通しています。

 「でも、そうなっているんです。」

 いつも、あっけにとられます。以前から決まっていたことを誰かが私に伝え忘れていた場合でも、ある日突然決まったことを私に伝える場合でも、とにかく言葉は「そうなっているんです。」

 いつぞや、週10時間の「基礎日本語」を、基礎日本語6、初級会話2、日語視聴説2、に分割するときも、「そうなっているんです」でありました。教材もない、メソッドもない、過去の授業例もない(そんなもの私はいらないが)まさに今とつぜん決まったことなのでありますが、そしてすでに授業はもう始まっちゃってるのですが、このとつぜんの分割について「そうなっているんです」。

 私が、「冗談じゃない」ということを予測してか、それを私に伝えたのは、私が大好きな女優・樋口可南子そっくりな30代前半の先生でありました。敗北を自覚したボウフラは、「へい、今週から分割案通りの授業やります」と、返事したのであります。別な日本人外教から、「そんな返事するのはあんただけだ」と言われました。わかっております。

 で、最初に書いた、「いますぐ成績を入力しろ」。

 さすがにできない、と返事すると、じゃ今日中に試験問題を作れ、と言ってきました。さすがに、通常ならA問題とB問題と二つ作って教務担当者がそのどちらを採用するか検討するのだが、「今回はA問題だけ作ってくれればいいです」。

 Aだけちゅうても、ねぇ。今日中、ねぇ。

 「明日か明後日、試験をして、すぐに採点して下さい。入力は採点後でいいです。」

 そりゃ採点前に点数を入力することはできませんよ。

 試験問題はすぐに作ります、といってとにかく電話は切りました。

 通常は、★月★日に試験をする、という前提のもと、授業をします。確認のための小テストをします。宿題も出します。その上でのテストであります。そうやって試験が、授業が、「商品」になります。

 今回は順序があべこべだと思いましたが、とにかくどなたかが、前期の中間で試験をする、その入力も中間終了段階(つまり第9週の終了)で行う、ということを私に伝えなかったのが「あべこべ」の原因であります。そもそもこの授業、もともとは私じゃない別の先生の担当でありました。

 必死で、その日のうちに試験問題を作り、電話から45時間で、メール送信しました。自慢じゃないが(自慢しちゃいけないが)私しか『これだけの時間で』『ゼロから作る』ことはできないだろう、と思いながら、教科書に準拠した、授業内容とも齟齬をきたさない、しかも60点を下回る学生が(たぶん)いないだろうと思われる、問題ができました。もちろん2つのクラス(班)の学習委員にはメールを出し、近日中の試験に備え、教科書の☆ページから☆ページまでを入念に復習するよう、伝えました。学習委員ももちろん知らなかったらしく、「えっ、明日か明後日には試験ですか!」と驚きの文面の返信が、ありました。

 それでも、こうやってする試験にも、授業にも、商品価値がやや下がったな、とは思いました。驚くべき速さで試験問題はできましたけど、「もう、この大学との契約延長はないなぁ」と、思い続けながらの、パソコン作業でありました。慰留されても、断るしかない。

 自らの、日本語教師としての商品価値が下がるような仕事は、いやなもんであります。

 今じゃ思い出話となりましたが。

 なんちゃって。