テロには、すでに「負けている」 | 三菱ジープの断酒日記

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千葉県柏市在住、2021年7月3日になれば70歳です。中国在住の日本語教師だったのは昔。他のアルバイトも昔。騒々しい人生で家族に心配と迷惑を掛けてきましたが、やっと落ち着き……と思うと、また新しい「迷惑」が……。

 1112日の木曜日、3年生の写作の授業で、はるか以前のマドリード列車爆破テロ事件について説明文を書いた学生がいた。90分の授業で900字を書ききるというのも立派だが、授業の翌々日にフランスで起こったことを考え合わせると、なんという偶然かと思う。

 2004311日、早朝、マドリード市内のアトーチャ駅など3つの駅で、大規模な爆発が立て続けに起こった。たった4分の間に、複数の列車で合計10回もの爆発が起き、駅の建物や列車は激しく損壊、通勤の時間帯だったため、191人が死亡、2050人が重軽傷を負った。

 実行犯の28名は逮捕されそのうち21人には有罪判決が下されたが、テロ実行犯は動機について、「スペイン軍をイラクへ派兵したことに対する報復」と述べている。

 国民党政府は、その直前に、アメリカに同調し、地上兵力をイラクに派遣していた。このことについては国内でも激論があった。国民党政府は「国益」を理由として強行したわけだ。しかし事件の3日後行われた総選挙で、国民党は敗北する。替わって政権を担当した労働党は、国民の声に応え、イラクからの撤兵を決定、4月下旬から5月いっぱいにかけて、地上兵力をスペインに呼び戻している。

 その措置のあとスペイン国内で同様のテロ事件が起きていないのかどうか、ボウフラは知らない。が、スペイン政府がどういう措置を執るか、重大な関心を寄せていた国が、すぐ隣りに存在する。ギリシャだ。数ヶ月後にアテネオリンピックを控えるギリシャは、スペインがどういう対応をするか、じっと注目していた。言うまでもなくテロは、ギリシャに対する暗黙の(あるいは、明らかな)警告でもあったからだ。

 事件後いち早く軍を撤退させたスペイン労働党は、テロに「敗北」したのだろうか?

 そもそも、口を開けば「テロとの戦い」というアメリカだが、テロとは本当に「戦える」のだろうか? 一時この言葉を使った、小泉にも聞いてみたい。罪なきサッカー観戦者や音楽愛好家の命を奪う、そんな行為に正当性がないことなんかわかっている。しかし良識は完全にこちらにあり非道無道は疑う余地なく向こう側の組織に充満しているという主張は、父祖の土地を奪われあるいは蹂躙されただ平凡に暮らしていただけの人間の頭上に「イスラム兵士がいる『かもしれない』から」という理由で雨あられと爆弾を降らせ「られる」人間の側から見た時、全く相対的な無根拠なものにすぎない。アメリカは先般国境なき医師団が活動する病院を空爆して多数の医者と患者を死なしめたが、確信犯的にアメリカが「わかって」そうしたのではないかという可能性を、誰も追求しないのはどうしてだ。情報がないにしても、(当たり前だ)その「疑い」ぐらいは持つべきではなかったのだろうか。そのアメリカのオバマが、人類の良識に対する戦争行為だという。ボウフラは何も今回のフランスでのテロが正当だったなどと言うのではない。ボウフラが言いたいのは、病院や結婚式場を、百も承知で爆撃するアメリカの無法が、テロと戦っているのかテロの理由を作り出しているのか、それすらわからない時、オバマのこのセリフをおだやかには聞けないということだ。そして、いち早くオバマに同調する声明を発表した日本の総理だが、もう少し慎重であってもいいだろう。私がもし2020年にオリンピックが開かれる都市の住民であったなら、安倍が口を開くたび、不安で不安でたまらなくなるだろう。

 写作の授業に戻る。説明文を書いた生徒によれば、2004311日は、2001911日から数えて911日目にあたる、そうだ。これが偶然なのか「警告」をより効果的にする「演出」なのか、わからない。わからないが、そう私たちが「空想」する時、警告の具体的効果は高まる。

 すでに、負けているのだ。