オフシーズンに放送していたNASCARヒストリー。2010年、フェニックス。シーズン35戦、チェイス第9戦。前戦のテキサスまでは、前人未踏の5連覇を狙うジミー・ジョンソンがハムリンに14ポイント、ハーヴィックとは38ポイントをリード。が、テキサスでは、ジョンソンのピットクルーが振るわず、順位を落とす。
クルーチーフのチャド・カナウスは、クルーが優秀なジェフ・ゴードンが、ジェフ・バートンとのクラッシュでリタイアすると、ゴードンとのピットクルーを入れ替え、巻き返しを図る。ジョンソンは9位、ハーヴィックが6位でフィニッシュする中、ハムリンは優勝し、8勝目を挙げ、ポイントリーダーに復帰。
ジョンソンに33ポイント、ハーヴィックに59ポイント差をつけ、初のシリーズチャンピオンに大きく前進する。が、フェニックスは当時、ジョンソンが群を抜いて得意としていたトラックで、14戦で4勝、トップ5が9回、アベレージフィニッシュは、4.9と圧倒。
ハムリンは10レースで未勝利、トップ5は5回、AVが11.8。ハーヴィックは15レースで2勝、トップ5が3回、AVに至っては15.0と3人の中では最も劣勢。ハーヴィックは、春のレースで14年から16年まで。秋のレースで12年から14年まで3連覇し、18年も春を制し、史上最多の9勝を挙げるのは、後の話。
ジョンソンは4連覇時代に圧倒的にフェニックスに強く、<フェニックスと言えばジョンソン>であったのだ。だから、フェニックスではジョンソンが最も優勢で劣勢なのは、ハーヴィックが事前の予想であったらしいのだ。レース前は、ジョンソン、ハムリン、ハーヴィック、エドワーズにインタヴューがさせているのだが、長いので簡潔に紹介する。
ジョンソン(予選21位)は、「(残り2戦でステンディング2位は、2005年以来)」と問われると、「チャレンジャーとして臨む。去年はポイント差が大きくて楽だったが、最大獲得ポイント195点は変わらない。今日はそれを狙っていて、来週はチャンピオンを取るよ」と自信満々。
一方のハムリン(予選17位)は、「マシンの感触は上々さ。とにかく勝利を目指して走るのみさ」とやや、緊張気味にコメント。チェイスでは2勝、トップ5が4回。トップ10が7回、ワーストは12位、AVは5.8と抜群の安定感を誇るが、最終盤に来て、緊張感は隠せない。
スタンディング3位のハーヴィック(予選29位)は、「今シーズン素晴らしい走りができていたし、今日のマシンもいい。ピットボックスもいい位置が取れたし、今日は自信満々さ。(29番グリッドのスタートだが)後方からの追い上げは経験豊富さ」と意に介さない様子。時に笑みを見せ、リラックスムード。
PPは、1昨年の最終戦:ホームステッド以来、勝利がないカール・エドワーズ。2008年は9勝を挙げたものの、ランキング2位。2009年は未勝利の上、11位に終わるなど、ガタガタになってしまった。2010年も未勝利。そのエドワーズは、前日のネイションワイド・シリーズで優勝。プラクティスと予選の全てでトップタイムをたたき出すなど絶好調。
エドワーズは、「昨日のネイションワイドで勝ったのは大きい。今日のマシンも速いので楽しみたいね。勝てれば最高さ」と語り、解説の石見さんに、「レースで勝てば、ロイヤルストレートフラッシュ状態」と言われるほど、乗りに乗っている。もう一台のフロントローは、AJ・アルメンディンガー(リチャード・ペティ・モータースポーツ)だ。
グリーンフラッグ。1マイルのトラックを312LAP。エドワーズがリードし、カート・ブッシュが続く。2LAP、ブレンダン・ゴーンがクラッシュし、いきなりのコーション。ゴーンは、足回りが完全に壊れてしまい、そのままリタイア。7LAPでリスタート。カートがエドワーズをアウトからパス。16LAP、ハムリンが9位とトップ10圏内に入り、ジョンソンが12位、ハーヴィックが18位と順位を上げてきている。
トップのカートには、ニックネームが、ブルーのミラーライトのカラーと、カーナンバー2から、ブルーデュースとなっている。現地でもそうなのか、G+スタッフが勝手につけているのかは分からない。28LAP、エドワーズがカートをインからパスして、トップを奪還。
29LAP、ハムリン7がデヴィッド・リューティマンをパスして、5位に浮上。41LAPには、3位に浮上。ジェイミー・マクマーレイは、この年から、チップ・ガナッシ入り。今ではお馴染みのカーナンバー1とマックカラーだ。59LAP、当時はまだカーナンバー12だった(2011年シーズンから、カーナンバー2に)ブラッド・ケセロウスキーがクラッシュ!2回目のコーションとなる。
ケセロウスキーは、ここでリタイア。リードラップカーが一斉にピットイン。タイヤ無交換のケイシー・ケイン、エドワーズ、ハムリン、カート、カイル・ブッシュの4タイヤ勢が続いたが、ケインはピットミスだったらしく、再ピットインし、交代。66LAPにリスタート。
ハムリン、カート、エドワーズ、マーティン・トゥレックス・ジュニア、マット・ケンゼスが続く。トップは、ハムリンに代わり、ケインは36位を走行している。マクマーレイがウォールにブラッシュ、リアウイングが歪んでいる。そのまま走り続けるが、これは厳しい。
86LAP、ハムリンがカートに1.983秒差、エドワーズは2.161秒、トゥレックスが3.542秒、トニー・スチュワートは4.179秒差となっている。ジョンソンが、ケンゼスをパスし、8位に浮上。88LAP、ハーヴィックが、ケンゼスを抜いて10位となる。
96LAP、スチュワートがトゥレックスをパスして、4位に。101LAP、デブリで3回目のコーション。これでフリーパスを得たマクマーレイだが、マクマーレイのマシンからボトルをホルダを投げ捨てたようにも見えるが、「間違って落としたんだと思いますよ」と石見さんは語るが、「疑惑の残るデブリですね」と続ける・・・フォローになってないw。
エドワーズ(+2)、ハムリン(-1)、カート(-1)、カイル(+3)、ライアン・ニューマン(+1)の順でリードラップカーはピットアウト。106LAP、リスタート。エドワーズが先行するが、ハムリンがインからパスし、トップに返り咲く。108LAP、ハーヴィックがトゥレックスをパスし、9位に浮上。さらにグレッグ・ビッフルに迫る。
140LAP、ジョンソンがカートをパスし、4位。スチュワートが続く。144LAP、カートをニューマンがパス。ハーヴィックもカートを捉えて、順位を上げてゆく。154LAP、ハムリントップ、ジョンソン4位(-68)、ハーヴィック6位(-104)・・・ジョンソンとハーヴィックが順位を上げているが、ハムリンが2人を抑えている限り、ポイント差は縮まらない。
春のフェニックスは30位。その直前にバスケットで膝を痛め、石見さんによれば、優勝した第14戦:ポコノの後に手術をして一気に成績が良くなったという(翌週のブルックリン/ミシガンで優勝)。165LAP、ハムリン、カイルのJGR勢の1-2体制に。ハムリンの快走がこのまま続けば、カイルが抑えに入る。まさに盤石の体制だ。
168LAP、ファン・パブロ・モントーヤ、エリオット・サドラー、171LAPにジェフ・ゴードン、ジョンソン、172LAP、ハムリン、ハーヴィックがピットイン。ここでケイシー・ケインが燃料タンクを付けたまま走行し、幸い落とすことなく、ピットに戻る。
アンダーグリーンのピットが終わり、ハムリン、エドワーズ、カイル、ジョンソン、ハーヴィックのトップ5に。199LAP、ハーヴィックがジョンソンをインからパスし、4位へ。210LAP、スチュワートもジョンソンを捉え、6位。ハムリンのトップが続き、ジョンソンが今一つで順位を下げていく展開は、ハムリンの優勝⇒戴冠という雰囲気になってくる。
217LAP、ハムリンが依然トップ。カイルが0.420秒、エドワーズは4.388秒、ハーヴィックが9.790秒、スチュワートは10.379秒、ジョンソンが11.379秒差となっている。220LAP、スチュワートがハーヴィックをパスして4位に浮上する。
222LAP、ロビー・ゴードンがスピン、4回目のコーション。80~85LAPのフューエルウィンドウを考えれば、もう少し後にコーションが出て欲しいところだったが、リードラップカーが一斉にピットイン。カイル、ハムリン、エドワーズ、ジョンソン、ハーヴィックの順でピットアウトするが・・・。
ハーヴィックの左リアのラグナットが締まっていないトラブルが発生。再ピットイン、19位にドロップ。229LAPにリスタート。カイルがリードするが、すぐにハムリンにトップを譲る。232LAP、エドワーズがカイルをパス。粘るが、2位のポジションを譲ってしまう。
234LAP、トラビス・クヴァピルがスピン、5回目のコーション。トップ集団は、ステイアウト。後方集団がピットイン。ハーヴィックも入り、ポジションを下げてしまったが、フューエル的には、もう大丈夫だ。240LAP、リスタート。ハムリン、エドワーズ、ジョンソン、カイル、バートン・・・ハーヴィックは、16位リスタート。
ハムリン、エドワーズを抑える。260LAP、石見さんは「(エドワーズ、ジョンソンは)たまにね、エンジンの音が途切れる感じがあるんですよね。もしかしたら、クラッチを早めに踏んで燃費をセーブすることを考えている可能性もありますよね」とコメント。
266LAP、エドワーズがハムリンに迫り、トップに。そのまま引き離してゆく。275LAP、ニューマンがジョンソンをパスし、5位に。288LAP、エドワーズとハムリンの差は、1.882秒。「先程のハムリンのクルーチーフ(マイク・フォード)の話によると、12LAPぐらい足りないじゃないかという風に言ってましたねえ」(石見)。
2位のハムリンは5位のジョンソンに63ポイント差、12位のハーヴィックとは、112ポイント差とリードしている。299LAP、ハムリンはピットイン。2タイヤチェンジでフューエルは万全だが、ここは1マイルトラック。ラップダウンになってしまう。ハーヴィックはともかく、ジョンソン。そしてレースをリードしているエドワーズは、フューエルセーブをしているというが、走り切れるのか?
5位のジョンソンは、19位のハムリンを抑え、6ポイントのリード。10位のハーヴィックは47ポイント差と接近。このまま走り切れれば、これまでと様相は一変する。「ホワイトフラッグが降られても分かりませんよ、まだ。燃料が切れた瞬間、止まりますからね」(石見)。
そのままファイナルラップ。3位にいたモントーヤがガス欠、スローダウン。何とか走り切ったものの、16位フィニッシュ。そのままエドワーズがトップでチェッカー。2年ぶり、通算18勝目。ニューマン、ジョーイ・ロガーノ、ビッフル、ジョンソン、ハーヴィック、ケンゼス、マーク・マーティン、カート、マクマーレイのトップ10。
ハムリンは12位に終わり、フィニッシュ後、車内でグラブを投げ捨て、悔しさを露にする。その直後、エドワーズが、お馴染みのバックフリップ。チェッカーフラッグを受け取り、観客席に飛び込む。6位フィニッシュのハーヴィックのインタヴュー。「(ラグナットトラブルで一度後方に下がりましたが、6位まで順位を上げました。ほっとしたのでは?)」
「正直、ラッキーだったよ。ピットロードでは、みんないい仕事をしてくれたよ。ちょっとミスをしてしまっただけさ。自分は、すごく落ち込んでしまったけど、リチャード・チルドレスや、ギル・マーティンが元気づけてくれたんだ。燃料が最後までいけることも教えてくれていたしね。トラフィックの中では、ハンドリングが良くなかったけど、上位に上がっていくにつれ、マシンはどんどん良くなっていった」
「生き残れたね。まだチャンスはあるよ」「(最終戦に向けて、どんな気持ちですか?」「何点差なのか、まだ把握していないけど、もちろん、逆転を狙っていくよ。ピットクルーのみんなも、やってくれると信じている。彼らは、ここ4週間ほど最高の仕事をしているので、自分からは何も言っていないよ。この調子でやっていくだけさ」
「来週のマシンも速いだろう。エドワーズや、ハムリンほどではなかったけど、今日のマシンも速かった。チームのみんなに感謝している。今日は勇気づけてくれたリチャードとギルのおかげさ」「(今日は13ポイント縮めてトップとの差は、46ポイントになりましたよ)」とインタヴュアーに教えられ、何も答えず、ハーヴィックは笑った。
悔しさを露にし、茫然とするハムリンは、「(190周をリードし、レースを支配しました。想像以上の悔しさと思いますが、今の心境は?」と問われ、「・・・本当に残念だよ。来週に向けてまだいい位置にいる。とにかく来週だよ」「(”ホームステッドまで僅差で食らいついていければ、チャンスはある”と以前言っていました。まだ15ポイント差でポイントリーダーですが、来週の最終戦に向けて、一言お願いします)」
「考えられないね。今日はマシンも良かったし、戦略もうまくいっていた。来週のことを話すのは難しいよ。今日はやるべきことをやったけど、結果に結びつかなかった。フラストレーションがたまるけど、チームのみんなのことは、誇りに思っている。勝てるマシンだったんだ。こんないいマシンに乗ったのは久しぶりだった。チームを誇りに思う。来週勝てるように頑張るよ」
「(マイク・フォードがレース後に燃料のことを言っていましたが、来週に向けて立て直しとして、できることは何でしょうか?)」「わからないよ。もう少し賢く守りの姿勢で走っていけば、燃料は足りたかもしれない。けど、もう過ぎたことさ。ポイントではリードしているから、ハッピーでないわけではないけど、今はまだ混乱している」・・・もう止めてあげて、って感じがするほどハムリンは消耗していて、前向きなコメントはついに出ず。
一方、マシンの仕上がりはもう一つながら、燃費レースを走り切り、5位フィニッシュしたジョンソン。「7(1タンクで89周走りました。どんな気分で、どうやって走っていたのですか?)」「スロットルを開かなくて済むことは全て試したよ。最後に2つほど順位を落としたけど、ピットで2つ順位を上げていたので、差引は0だね。いいパフォーマンスだったね。一日ずっといい走りができたし、ピットストップも最高だった」
「おかげでトラブルに巻き込まれずに済んだよ。終盤の燃費セーブもうまくいったね。ハムリンにプレッシャーをかけているのはいい事だね。あと1戦、準備はOKさ」「(現在15ポイント差のスタンディング2位。ホームステッドでは、まだ勝っていませんが、どんな心構えで臨むますか?)」
「心構えなんてどうでもいいことさ。ハムリンにはプレッシャーがかかっている。この1週間、彼の頭からプレッシャーは消えないだろうね。自分だけではなくて、ハービックもいる。残り1戦、勝ったドライバーがチャンピオンさ。ショーをお見せするよ」
ハムリンと対照的にジョンソンは、追うものの強みか、自信満々。この様子を見ると、ホームステッドの結果はすでに見えているように思えてくる。そして、2008年のホームステッド以来、71戦ぶりの優勝であるエドワーズのビクトリーレーンに映像は移る。
「(71戦ぶりのビクトリーレーンです。誰と話しているのですか?)」「妻とだよ。スプリントの新しいタイプの携帯さ。話しながら、TVが見られるんだ」「(ESPNは奇麗に映るはずです。それより久しぶりのビクトリーレーンですね)」「現実じゃないみたいだ。多くの人にお礼を言わないといけないね」
「どんな時も常に支えてくれたアフラックは素晴らしいパートナーさ。彼らやフォードのために勝てたことを誇りに思う。フォード・フュージョンの燃費は最高だね。”燃費レースの、このお腹にキリキリ来る感じを忘れていたよ”とさっき、ジャック・ラウシュが言っていたんだ。”その感じよくわかるよ”って答えたよ」
「ファンと一緒に祝福したけど最高だった。ファンに感謝している」「(大盛り上がりでしたね)」「ゲートに行けるのが見えたんだ。良かったよ。他にもスコットや、今朝も食べたケロッグ、それにサブウェイなど、全てのスポンサーと支えてくれた人に感謝している。長い間勝てなくて、自信を維持するのが大変だったよ。勝利を必要としていたんだ」
「(フェニックス・スウィープですね)」「信じられない。最高だよ。現実とは思えないけど、これがまさに自分達が必要としていた事さ。本当に特別な事だよ。もう一度言うけど、アフラックとファンには感謝している。妻のケイトと娘のアニーのも、”1 love you”と伝えたい。もうすぐ家に帰るよ」
これでハムリンが6482ポイントでスタンディングトップを守ったものの、2位のジョンソンとは、わずか15ポイント、3位のハーヴィックとは46ポイントに差は縮まった。最多リードラップの10ポイントが効いたものの、レースを完全に支配していたものの、最後に燃費レースで順位を大きく落としたショックは大きい。
事実、翌週のホームステッドでのハムリンは、エドワーズに優勝を許し、ジョンソン、ハーヴィックが2位、3位に。自らは14位に沈み、ジョンソンの5連覇を許してしまう(ジョンソンとは61ポイント差の2位。ハーヴィックとの差は、わずか2ポイント)。以降ハムリンは、2014年のチェイスでホームステッド行きを果たしたものの、チャンピオンを逃し、去年は遂に未勝利。JGRで、存在は薄くなる一方。このレースは、上昇気流に乗っていたハムリンのキャリアを暗転させる一戦になったのかもしれない。