子規随筆の中の俳句・短歌(14) | 俳句の里だより2

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俳句の里に生まれ育った正岡子規と水野広徳を愛する私のひとりごと

仰臥漫録(5)

 

このシリーズでは脊椎カリエスにより寝たきりの人生を送った時代に書かれた4大随筆(「松羅玉液」「墨汁一滴」「仰臥漫録」「病牀六尺」)の中の俳句や短歌に加え、人力車で短時間外出した際に詠んだ短歌(「亀戸まで」)についても紹介している。前回は、2番目の随筆「墨汁一滴」の中の俳句87句(子規;30句、他;57句)と短歌130首(子規;66首、平賀元義;53首、他;11首)を紹介したが、今回は3番目の随筆「仰臥漫録」の中の俳句485句(子規;457句、他;28句)と短歌45首(子規;45首、他;0首)を紹介することとする。

 

「仰臥漫録」は、「墨汁一滴」の新聞「日本」への掲載を終えた明治34年(1901年)7月2日からちょうど2ヶ月後の同年9月2日から、翌明治35年(1902年)9月の子規が死去する直前まで、約1年間にわたり折々に書かれた日記(子規34~35歳)であり、ここではその中の俳句485句と短歌45首を8回に分けて紹介している。前回(4回目)は、「仰臥漫録二」の中の明治34年10月25日以降の俳句10句と短歌41首を紹介したが、明治35年7月29日の麻痺剤服用時刻と、同年9月3日の「夜会草ノ花・・・」以外には、日記の俳句や短歌を詠んだ(書いた)日付などははっきりしない。そのため、前回に続き、日付は省略して記載順に俳句と短歌を紹介することとし、今回(5回目)は俳句82句を紹介する。

 

〇男の子一人欲しいという人に代わって詠んだ句

 桃太郎は桃 金太郎は何からぞ

 

〇女の子欲しいということに対して詠んだ句

 花ならば 爪くれなゐや おしろいや

 

〇年老いて修学する不幸な女に対して詠んだ句

 女郎花 女ながらも 一人前

 

〇秋田の俳句誌「俳星」の島田五空宅が焼け、蔵書2万巻が焼失したことに対する「火事見舞い」の句

 腹中に 残る暑さや 二万巻 

 

〇以下、順に俳句を列挙;30句(重複は除く)

   大漁

 十ヶ村 鰮くはぬは 寺ばかり

 日蓮の 骨の辛さよ 唐辛子

 よべここに 花火あげたる 芒哉

 大岩の 穴より見ゆる 秋の海

 朝顔や 我に写生の 心あり

 草花を 画く日課や 秋に入る

 門川や 机洗ふ子 五六人

 物洗ふ 七夕川の 濁り哉

 洗ひたる 机洗ひたる 硯哉

  丁堂和尚から南岳の百花画巻をもらって朝夕手放さず 

 病床の 我に露ちる 思ひあり

  画に題す

 庭行くや 露ちりかかる 足の甲

  臥病十年

 首あげて 折々見るや 庭の萩

  親鸞賛

 御連枝の 末まで秋の 錦哉

  薩摩知覧の提灯を新圃にもらった

 虫取る夜 運坐戻りの 夜更など

  千里女子写真

 桃の如く 肥えて可愛や 目口鼻

 桃の実に 目鼻かきたる 如きかな

 翡翠や 芙蓉の枝に 羽づくろひ

 桃売の 西瓜食ひ居る 木陰哉 

  法然賛

 念仏に 季はなけれども 藤の花

 盆栽の梅早く 福寿草遅し

 橋十二 どちら向いても 春の月

 苗代や 第一番は 善通寺

 猩臙脂に 何まぜて見ん 牡丹かな

 氷屋の 軒並べたる 納涼哉

  弘法賛

 竜を叱す 其御唾や 夏の雨

  伝教賛

 此杣や 秋を定めて 一千年

  日蓮賛

 鯨つく 漁夫ともならで 坊主哉

 鬼灯の 行列いくつ 御命講

  西陣

 冬枯の 中に錦を 織る処

 石蕗の花 盛りに咲きて 寺臭き

 

〇以下、順に俳句を列挙;俳句18句(其角12句、召波6句)

●其角の詠んだ12句 

 鳶の香も 夕立つ方に 腥し

 明石より 雷晴れて 鮓の蓋

 瓜守や 桂の生洲 絶えてより  

 いそのかみ 清水なりけり 手前橋

 虫はむと 朽木の小町 干されけり

 驥の歩み 二万句の蠅 あふぎけり

 妾が家 蛍に小唄 告げやらん

 伊勢にても 松魚なるべし 酒迎

 早少女に 足洗はする 嬉しさよ

 涼みまで 都の空や 連と金

 桐の花 新渡の鸚鵡 不言

 草の戸や いつまで草の かび粽

 

●召波の詠んだ6句

 日も暮ぬ 人も帰りぬ 水雞鳴く

 凄哉 競馬左右の 顔合

 翌までと 括りよせけり 蚊帳の破

 筆のもの 忌日ながらや 虫払

 茄子あり ここ武蔵野の 這入口

 茄子売 一夏の僧を おとづるる

 

〇以下、順に俳句を列挙;百合などを詠んだ30句

 夏山や 岩あらはれて 乱麻皴

 畑もあり 百合など咲いて 島ゆたか

 一列に 十本ばかり ゆりの花

 鄙の様 家南向いて ゆりの花

 百姓の 麦打つ庭や ゆりの花

 伸び足らぬ 百合に大きな 蕾かな

 姫百合や 日本の女 丈低し

 百合の花 田舎臭きを 愛すかな

 百姓の 土塀に沿ふて 百合の花

 百合持つて 来たる田舎の 使かな

 宣教師の 妻君百合を 好みけり

 花売の 親爺に問へば 鉄砲百合

 姫百合や 余り短き 筒の中

 六尺の百合 三尺の土塀かな

 用ありて 在所へ行けば 百合の花

  小照自題

 蝸牛の 頭もたげし にも似たり

  病中作

 活きた目を つつきに来るか 蠅の飛ぶ

  謡曲熊坂

 盗人の 昼も出るてふ 夏野かな

 みじか夜や 金商人の 高いびき

 夏草や 吉次をねらふ 小盗人

 夏の月 大長刀の 光哉

  選挙競争

 鹿を追ふ 夏野の夢路 草茂る

 すずしさの 皆打扮や 袴能

 風板引け 鉢植の花 散る程に

  この日寒暑不定、折柄淡雪という菓子をもらって

 湯婆踏で 淡雪かむや 今土用

 芋虫や 女をおどす 悪太郎

 生きかへる なかれと毛虫 ふみつけぬ

 毛虫殺す 毛虫きらひの 男哉

 新川の 酒腐りけり 鮓の蓼

 ラムネ屋も 此頃出来て 別荘地