オンライン俳句図書館は

「ミルトス館」へ名称を変更いたしました。

 

羽子板市西東三鬼少女連れ  沢木欣一

 

「綾子の手」より

第12句集、最後に掲載されている俳句です。

思い出をつづって、終わりとした句集。

「綾子の手」は、人生の終盤を意識して編まれたことは間違いないでしょうが、

そのような雰囲気を微塵も感じさせない、変わらぬ欣一の作品に触れることができます。

見事な終わりだと思います。

以下、「あとがき」より

 

句集『綾子の手』は第十二句集に当る。平成七年より平成十年まで四年間の作品から四百十三句を選んで収めた。七十六歳より八十歳に到る作である。

この間、平成九年九月六日、細見綾子が故人となった。

 

泥の好きな燕見送る白露かな  欣一

 

綾子は昭和初年ごろより俳句を始め、俳歴約七十年、倦むことなく句作を続けた。多くの方々の暖かい御支援・御鞭撻によるもので、厚く御礼を申上げます。

「綾子の手」という題名は小生の考えたものではなく、「俳句」の編集に当っていた海野謙四郎氏より題を出され、三回連載で六十句作れということであった。当時、綾子は埼玉県の病院に入院して重態、私と息子が詰めていた。

この句集は綾子追悼のものとなった。毎朝、遺影に水を供えているが、まだ故人となった実感が湧かない。わが家の庭では今、薔薇の花盛りである。三十年ほど前に、西東三鬼さんが訪れ、この薔薇の花に鼻を寄せて香をかがれたことを憶い出す。三鬼さんは綾子俳句の愛読者であった。

私は四ヶ月ほど入院していたが快方に向い、退院して療養中、無理をしないで自重して、ぼつぼつ俳句の仕事にかかっています。「風」は来年、創刊五十五周年に達します。自ら作って来た伝統を踏まえ、新しい歩みを印したいものです。

 

平成十二年五月二十一日

沢木欣一

 

 

 

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