牡丹雪入れて壺中の天となる   五島高資

 

句集『蓬莱紀行』より

 

牡丹雪の感動が伝わります。

牡丹雪は、少し暖かくなってきたころ降る大粒の雪で、

一斉に天からこぼれてくる様は、圧倒される思いです。

仰ぎ見ていると、天に吸い込まれていくように感じます。

 

こちらは、「一壺天」を踏まえた一句でしょう。

一壺天、『後漢書』方術伝の故事を思い作句されています。

おそらく、大きく口を開けた壺に、

牡丹雪がつぎつぎと降り継いでいたのだと想像します。

春の雪ですから、淡くはかなく、直ぐに溶けてしまうのですが、

降り積むこともあり、あっという間に世の中を白に覆ってしまいます。

しかし、降りやめばすぐに溶けてしまいます。

それを知っているだけに、

牡丹雪を宝石のように愛でているのではないでしょうか。

天から降る白い宝石は、地のおもてをまんべんなく染めてゆきます。

小さな壺の底へも、同じように注がれる牡丹雪。

覗き込むと、別天地へ引き込まれた感覚になったのでしょう。

小さな壺の底に、無限の天が拡がっている、

それは心の為せるわざ、心が見出した壺中の天です。

 

壺中、天あり。

心貧しければ大天地大ならず、

心豊かなれば小天地小ならず。

 

牡丹雪によって、壺の中は天となったと言います。

しかし、壺中が天となったわけではありません。

それを天としたのは、作者の繊細な感性であり、

そして、成熟した人格であったのだと思います。

 

 

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