胡弓の音をどりの影の重なりて 田上さき子
(こきゅうのね おどりのかげの かさなりて)(たがみ・さきこ)
句集『鷺舞』より
鷺舞も踊りですが、こちらは胡弓の音とありますので、
おわら風の盆でしょう。
風の盆は、富山県越中八尾にて、
9月1日より3日間、胡弓の音に踊り流すというもの。
哀愁を帯びた音色に、踊り笠に顔を見せない踊り子の姿は、
二十万人もの観光客が訪れる人気の行事となっています。
坂の町八尾を、雪洞が照らし、
その中をしっとりとした踊りの列が続きます。
おわらは、男踊りと女踊りがあり、
町内ごとに、踊りが若干異なります。
男踊りが諸手を広げれば、女踊りは袖を少しからめて取り、
男女の踊りの影が重なって、一瞬、静止します。
笠にかくれた踊り子の、
男の顎がしまり、女のうなじが白々と見えます。
その瞬間をとらえた一句です。
おわらは、300年の歴史があるそうです。
笠で顔を隠すのは、その昔、遊女たちが町を流したからだという
伝承もありますが、定かではありません。
ですが、あの哀愁に満ちた音色は、
もしかすると、そうだったかもしれないと思わせる所以でしょう。
踊りの影が重なっても、それは一瞬のこと。
だからこそ、より一層美しく感じられる風の盆。
一度は訪れたいと思う場所です。
カノン