群青のすぢひいて雉翔りけり   林 徹

句集『群青』より。

林徹は、「一句一句を素裸で立たしめたい」と、
前書きを必要最小限にとどめたと、
あとがきに記しています。

ですから、ここで、種明かしのようなことを
するのは、徹師に失礼ではありますが、
俳誌「雉」にエッセイが残っておりましたので、
参考に読んでみたいと思います。

徹師は、それまで雉を見たことがなかったそうす。ある時、車窓から
「あ、雉!」
という、句友の声を聞き、
「どこに?どこに?」
と探したけれども、見ることができませんでした。
そのような徹師に機会が訪れました。
「雉」同人のKさんのご主人が猟をされるというので、ご一緒にいかがですかと、
お誘いを受けたのです。
徹師は、Kご夫妻と愛犬とご一緒に
猟へ出かけました。
その時、ポインターに追い込まれた雉が、
群青の色を残影に、
空へと舞い上がり、飛び去りました。
その感動が、この一句を生み出しました。

「群青のすぢひいて」は、
目に鮮やかに残る雉の姿を表し、
「翔りけり」は、
国鳥「雉」の崇高さを讃えるには
ふさわしい言葉ではないでしょうか。

雉は、河原など、思わぬところで遭遇し、
その美しさにハッとします。
(色どり鮮やかなのは、雄だけ…)
しかし、私の知る限り、雉は大きいだけに、
バタバタと飛んでいくイメージがあります。
徹師の感動は良くわかりますし、
そのように目に映ったのも納得できますが、
「雉も鳴かずば撃たれまいに」の
ことわざ通り、飛ぶ姿はおいしそうで、
撃ちやすいように思います。

私ならば、絶対に「翔けりけり」とは詠めない
と思いました。それだけに、
この表現力に魅了されます。
写生に徹した徹師の俳句ですが、
写生とは、決して「そのまま」ではないことを
教えてくれている一句だと思います。

皆さんは、どのようにお読みになるでしょうか。
林徹『群青』は、こちらから。

 

 

 

カノン