朝夕の寒さが滲みる頃となりました。やっと冬が来るという実感があります。先日、自由俳句「風薫」の句会を開催いたしました。兼題(テーマ)は冬服。厚手の上着を着た人とすれ違ったときに、ふっとショウノウの香を感じたことがありました。いいものですね。誰かの思いやりの香ですから。寒いけれど、気持ちはあたたかく過ごしたいものです。
平澤 達也
うたた寝や炬燵の中の赤き残像
ライブ終へギターの上からジャケはをる
ライトダウンナフタリン臭風に解く
手袋の片方探すやもめかな
高崎 志朗
七五三ゑびすの顔の母もゐて
カサブランカ襟立まねて闊歩かな
朽バナナ豹柄となり冬麗
新嘗祭神馬の毛並み輝けり
仕事中遇つた人乗せ冬日和
渡辺 健志
散り紅葉ゆるると流る湖面かな
うろこ雲七色に染む日暈かな
さば雲を七色に染むる日暈かな
呼びとめる翁や冬の二重虹
冬ざるる高き炎の溶鉱炉
溶鉄の紅に見惚れる炎の魅
肥満かと見まごうばかり空調服
明石海峡橋影染むる落暉かな
冴ゆる夜の漆黒裂くや橋灯
大竹 和音
外套を預け広場の晴れ舞台
距離感の丁度いい席コート脱ぐ
くだら野やライフル音の距離を読む
心葉をたぐりマニアのミニシアター
冬ぬくし大入のチャリティライヴ
銀幕の美貌よ永遠に冬星座(ジーナ・ローランズ追悼)
演奏の研ぎ澄まされし冬銀河
小林 泰子
冬服を出すか出さぬかの祝の日
鴨の群れ水尾の混じりて無色なる
行く先をまやかしており冬茜
白石 洋一
古い輪ゴムは切れる
断酒明けの一杯目のビール
縁側の仕事場薄手のセーター着る
十四年目のフリース袖縁ユルユル
セーターの毛玉を数える暇
いつもの時間に起きるも真っ黒
サザンカの紅を供えた朝寒し
ヘンリーマンシーニが紡ぐ曲
人生を変えるのは自分だけ
髭の八割白くなり
刈谷 見南國
一葉忌切手を足せる葉書かな
葉書握るポケツトとして冬着出す
ぬいぐるみ生きてゐるらし着膨れて
落葉降る空手の子らに小さき手に
住宅地図壁に貼りつく北風かな
逸らされた話戻しつ寒茜
ポインセチア飲み友は皆有名人
ジーナ・ローランズ逝く凩の色黄金色
ジーナ・ローランズ逝く銃の匂ひ雪の匂ひ
福冨 陽子
セーターの肩一ミリを枝掴む
冬服や選ぶ魚の同じかな
凩や吾の屋の隅に山の息
冬林檎故郷のほうを向ひている
朝しぐれ猫の鼾に合わせ寝る
花壇の煉瓦の下に冬蚯蚓
帰り花あさがお一輪皺のまま
つわぶきの花に黄蝶
