蓑虫のぶら下がりたる庭の幸 | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 十月になり日没の早さを感じます。空高く雲が流れ、樹々に実が成り、朝夕の寒さも身に沁む頃となりました。風薫の今月の兼題は「新豆腐」。とれたての大豆をいただくものですが、新酒、新米、新蕎麦など、新しい味覚を堪能できるのも秋ならでは。元気をいただいてこれから寒くなる季節を楽しみましょう。

 

 

疋田 勇

 

朝煮への香り漂ふ新豆腐

葛の花ひとすみ庭に咲き誇り

頼らるることまどろこしカラタチの実

手を合はせ不動様に草団子

図書館は窓から暮るる赤蜻蛉

刈られたる稲田に群るる蝗かな

 

 

山 多華子

 

新豆腐紅葉おろしも鮮やかに

新豆腐一献傾け差し向かい

繕いの衣たたみて新豆腐

草紅葉奏でる如し白き雲

大和尼寺秋まるごと食べ尽くし

秋陽さす風心地良し通勤日

茸めし紅生姜添え季味わう

秋入日寄せ入る波や釧路川

レモン茶や陽だまりに座す午後三時

残る葉に雨ひとしずく梅擬

 

 

大竹 和音

 

仏壇のお茶を入れかへ新豆腐

新豆腐換気扇より甘き風

名月や平和観音後光射す

夜なべして歌詞を嵌め込む自作曲

をととひの居間の竈馬を庭の木へ

在りし父背負ふ頭陀袋落花生

茱萸の木や工場もろとも焼けにけり

宵待月忘れた頃にUS盤

どぶろくやおやじばかりのカフェライヴ

父の時計バンド余りて柿すだれ

 

 

小林泰子

 

秋の海踏みしめて歩く石の道

新豆腐やさしくはこぶ一口目

半月や母とわけ合う即席麺

 

 

白石 洋一

 

栗ご飯今年は何度の炊き立てか

犬散歩黄色い花折り飯台に

茄子を焼き皮を剥ぎカボス絞って

彼岸花犬は足を引きずって

新豆腐豆乳の香の記憶湧く

大豆叩いて干し上げる新豆腐

犬の老いを自分に重ねて

老犬を土に還す思い出供に葬った

犬は私をどう思っていたのだろうか

散歩は犬が私に付き合ってくれたんだね

 

 

刈谷 見南國

 

人は違へど訛りは同じ新豆腐

受付のをんなだんまり新豆腐

二時間ごとに喋る男や新豆腐

方言を手渡すやうに新豆腐

ひらがなの級数小さし新豆腐

長袖を脱ひだり着たり獺祭忌

自打球を当てる大谷地蔵盆

朝顔の紺に健診通知かな

火・祝は括弧で囲はれ烏瓜

鷹の眼差しジャン=リュック・ゴダール死す

 

 

石井 温平

 

嗤はるるコーラス愉し敬老会

どの局もニュースのアナの赤い羽根

秋の陽や陽明門も浮き上ぐる

瓢箪の立派なふるさと土産かな

秋霖や機関車愛ずる大女優

誰も彼も幸せ求め天髙し

 

 

福冨 陽子

 

新豆腐思ひ出せないまま食べる

猫の眼の傷は浅ひか新豆腐

琉球アサガオ三つ子の種揃ふ

布団叩きと鳥声混じり白露

逃れ着く佐渡は雨に吞まれたり

荒波の語り続けば薄ら虹

六助の秋蟹赤く波の音

ローソンの看板黒し地図の島

佐渡島ひとりにさせぬ暮らしかな

庭に水いつもの日々や秋深し

コシロシキブ