今回もメールでの投句会となりました。それにしても春はいつものようにやってきて花を咲かせ虫を世に出し動いています。私たちも動きつつあるのを感じます。いろいろな新しい芽吹きの発見をしていきたいと思います。今回の兼題は「音」でした。
宇都宮の桜も咲きはじめているようです。
おののひいこ
三月十日欧州爆撃音
筒音に抗う声強まれ春
猫柳銀の毛に宿す春美音
疋田 勇
じいじいと聞こえる我の耳なりに
山々に花のかれんに夢期待。
丹念に絵筆動かし仏像画。
本選び大きな活字のなが時間
師の墓に捧ぐ榊の心寄せ
大竹銀河
春眠へ誘ふ二重写しの自我
金箔は鱗春菊茹でにけり
胡蝶の夢野焼疲れの目に眩し
心音を肉球の下春嵐
耳鳴りのような蛍光灯春夜
山 多華子
運針の音もせぬ午後和裁室
春の音旅立ち迎え巡り来る
音もなく春の芽吹きは語り来る
感染に季節の音も聞けぬ世か
風の音春夏秋冬喜怒哀楽
初摘みの濃い茶薫る庵春音満つ
湯冷め無し心往く迄垢こすり
至福なるストレス発散垢こすり
寒の菓子今も変わらぬ翁路
春陽射す録画リスト画埃取る
スマホ見る予定続くは仕事だけ
春来たり手抜き掃除心浮く
黄砂かな黒縁メガネ欲しくなる
渡辺 健志
無音でもこんこ聞こえる春の雪
廃屋に風鈴ひとつ春も鳴る
引鴨や空に消えゆく声と影
春の夕笛鳴り語る閉め忘れ
耳鳴りか音なき音はラジオから
梅の香楽しむ人とむせる犬
山城や梅花彩り人おらず
大竹 和音
大正を鳴らす春風ちんどん屋
ギタア拾ふ信号待ちの高架下
跳び起きる朝の春雪咬む車輪
ラヂオから東風吹くサツチモのラツパ
履き違ふ幼児のズツク鳥さかる
古草や和柄あて縫ふブルージーン
教室の皆うつむきてスイトピー
白き花残り香かすか鳥帰る
白石 洋一
無音を聞いている深夜二時
自分を親に持つ人間がいる事の感慨
列車の音踏切の音重なっており
部屋干しのシャツ凍った二月の朝
こんなに寒いのに亀虫這い回る
忘れたい事は少ない人生
霜耐えた菠薐草を炒めおり
蕗の薹まだ丸まって何を待つ
朝焼けの空 豆腐屋の匂いして
耳鳴りと何年付き合って来たかな
刈谷 見南國
鳥帰るパンチカードを読む音で
昼蛙バチツと碁石のひゞきかな
行く春のカーテン破れゆく廃家
女子に貸すテープまだ手にサイネリア
まだ部屋なき春ラジオが部屋だつた
模試の席先に立つ人しやぼん玉
つばくらめ技術の教師の内無双
第二志望やんはり推され春の月
卒業の当て字の多きお芽出度う
二人でも集団就職夜汽車乗る
石井 温平
麗かや友愛に満つ仲間どち
同胞(はらから)の身に沁む温さ暖かし
還暦の長女祝ひつ春惜しむ
桃満開夫々に老ひ吾娘二人
隅々に苺の皿や孫ルーム
福冨 陽子
洩れ音止まる蛇口の俯瞰の夜
葦焼や渡良瀬からの黒煙来て
はやと瓜芽は伸び悩み春霞
骸木の枝転がして春颷(はるあらし)
春椿堕ちてもつともうつくしき
書架棚を増やし固める仮要塞
アメフラシはよ帰らんねよなぼこり
だんごむし脱皮の途中の春時雨
葉キャベツの花芽(3月23日)
