菠薐草茹でて朝餉の椀を出し | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 いつのまにか受験シーズンとなり、卒業を迎える季節となりました。この頃になるとマイク・ニコルズ監督の「卒業」を想い出します。ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスのラストシーンが印象深いです。サイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」の曲とともに甦ります。

 いいものですね。何かから、どこかから卒業するということは新たな旅立ちがあるということですから。

今回はメール投稿で作品を出し合いました。兼題は「薄氷」(うすらひ)です。早く暖かくなってほしいものです。

 

 

 

おののひいこ

薄氷や子に踏まれ鳥ごと鳴る
朝日射しちさいちっさい春氷
吾生きる薄氷の上面白や
湯たんぽの湯で顔洗う寒い朝
初夢や微笑む亡母黒い髪
春が来た父声高に福は内
空を切るビルの谷間の初燕



疋田 勇

薄氷や菫ゆつくり寄り添えり
裏路地に砕く足音薄氷
踏み出せばもう斬つてをり木の芽風



大竹銀河

グーグルマップの経路行き薄氷
薄氷の携帯電話替えどきか
薄氷や空へ火を吹く煉瓦窯
春水や陳列離れテラリウム
春の夢アルミシートへ包まれて
春風邪や国道沿ひを散歩して
腹踊りするカメラマン入社式
春節や二十日まで店休業し
三日月となる爪春の兆しけり
初場所の実況中継殺伐と



山 多華子

うすらひの土盛り上げる地鎮祭
うすらひの陽の中芳る蝋梅や
忘れ花春の氷の上に散る
針納め流行り病に延期する
冬ごもり塩辛と酒やめられぬ
北塞ぐ大凶の日眉濃くす
粕汁や聖母語るは店主なり
氷面鏡夢の舞台の踊り手よ
云えぬ事忘れたと言う八つの子
還暦のソツクタラモノ赤衣



渡辺 健志

窓氷引手動かず鍵を見る
棋士去りて夢も覚めるや過疎の町
氷晶や指の痛みも忘れけり
川岸の白き反射薄氷



大竹 和音

薄氷をことごとく踏み登校す
うすらひや人気アニメのソノシート
うすらひの沼に小石を放りけり
薄氷や割れた廃墟の硝子窓
救急車の迫る天井星朧
鉄塔のてっぺんの子と春疾風
春一番荒れた空き家の木戸軋む
一端と馬鹿の狭間や遅き春
彼岸会や知らぬ間に親父にも似て
青春の迷子皆青息吐息



白石 洋一

あの月を何人が見てるだろう 
冬の朝我と犬の影映す月
歿後三十五年母の箪笥捨てられず
一両の列車人影無く踏切過ぎた
啄木鳥や人には不可能連打音
この世とは息の続きのある世界
薄氷やトラクター真から冷えており
アスファルトの薄氷を踵で割る
うす凍り洗濯物は乾くかな
この地で最期を迎えるのだろう



刈谷 見南國

薄氷や泥拭ふアイツがホシだ
薄氷や我が家に無人ビルの影
薄氷や母娘の声の似てきたる
冬の薔薇ロマンポルノは七〇分
労つてゐる人が年上春苺
春の〇赤鉛筆は圧弱め
体温計母二回振る木の芽風
寒明くる秘密の問ひに答へたら
皆袴脱ぎ年始会の日決めてをり
「俺をいつから疑つた?」「花過ぎに」



石井 温平

若水や祖父在すごと愛満つる
初孫の名の渚なり惠方道
アメリカの孫もくもくと年酒酌む
母も圣し針供養淺草の月
春寒や男だてらの江戸好み



福冨 陽子

魚溜り薄氷の下のシャンバラ
薄氷や重み消したりハクセキレイ
和菓子屋のやや氣の変はる桜餅
春色のスカートとすれちがふ路地裏
ふきのたう家族の幸を計り咲き
女鬼と鬼女呑み満腹池の春
野良猫の飲み水こほりバレンタイン
夜具を変へ凡たる闇夜に羽が生へ
お向かひさん入院するも春菜の青し
杉並木じつと耐へたる忘れ雪

宇都宮中央公園の薄氷(2月上旬撮影)