芭蕉翁くろばねの路花の路 | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 七月のある日曜に黒羽の芭蕉の館へ向かいました。あいにく一日雨模様でしたが、運がよかったのか宇都宮を出るときは雨は降っておらず、黒羽に着いたときも大雨が降った後でした。芭蕉と曾良が辿った路、とくに黒羽には13泊もしたのです。おくのほそ道の旅中で最長逗留との記録があります。

 その後、私たちは黒羽の観光やなで焼鮎をいただきながら外で詠めなかった句を書き、さらに足を伸ばし芭蕉も訪れた雲巌寺へも。苔生した正門下の橋の前。本堂から見下ろした森。なんともいい吟行ができました。

 今回は参加できなかったメンバーもいたので各人自由句も併せて掲載しています。

 


加納弘志
 

静寂や芭蕉の館雨香る
那珂川の流れ優しき鮎踊る
 

 

疋田 勇
 

俳句会芭蕉の館名句あり   
風さそう芭蕉の館あじさい群
梅雨時に湿気漂う押し入れに
つゆ草の雨に打たれし可憐さよ
落雷の梅雨の雷雨に急ぎ足
出し惜しみ古着の衣服思い出に
コヲロギの口元見ればミミズかな


渡辺 健志
 

橋の下あじさい盛る花の堀
鮎食らひ歩き通した日々思ふ
ひとやすみ細流(せせらぎ)聞けぬ大夕立

 

大竹 銀河
 

道中の親子沈黙雷鳴す
練習の和太鼓ならす舞台裏
網戸張り替へて連山霞みけり
ビニールプール膨らませ車積む
夏落葉掃く警察学校の朝
生活保護職員扇風機運ぶ
井戸水を含みしタオル鉄臭し
七夕やオール電化といふ住まひ

 

山 多華子
 

夏期講座俳号年譜芭蕉館
梅雨空の心舞う旅アナウンス
梅雨晴間黒羽芭蕉鮎うまし
七夕の空に湧く星舟にして
旅生きし歌仙完結雨あがる
梅雨の闇庵厳か雲巌寺
雨蛙鳴き声高く我もせく
梅雨茸朽木に群れる命花
猛暑や松葉牡丹も乾くなり
遠き庭その茎隠れクレマチス
猛暑日北の待ち合いニ度低く
晩夏なり裾断ち切るやミシン踏む

 

大竹 和音
 

あをばづく芭蕉と曾良のブロンズ像
芭蕉句碑苔むす山の雲巌寺
くちなしや寂雨に香る雲巌寺
夭逝の歌手の言霊姫蛍
かかがはりばあばの民話蚊帳の中


小林 泰子
 

雨音や眠れぬ夜のBGM
黒羽の濃きあじさいに誘われて
ひっそりと七夕飾りを作る母

 

白石 洋一
 

ここに私が生きた事私だけの記憶
深夜ラジオのオードリー聴く
人生なんて思うほどでも無かった
仕切りに鳴く小鳥の美声ラジオ切る
畑の草むらに朝靄が満ちている
安アパートはコインランドリーに通った
熟梅が落ち踏まれ甘酸っぱい香する
どこかで災害遭ってもニュースで見るだけ
下弦月鳥が渡って梅雨明ける
遠雷や朝の明け待つ一人床

 

刈谷 見南國
 

黒羽食堂やな喞筒から鮎

焼きチーズケーキ罅ゐる天の河

枝豆飛びたり急に終はる映画

四階の人の呉れたるゼリー何処

肉球灼く夕方帰ると我が主人

夏の朝妻は「ごはん…」と力なく

靑葉時雨ひたひつたひて言葉なる

ハンカチの端振る音も乾かせり

重なりしバケツに下着夏の果

芝に夜露イレギュラーする球速し

 

 

石井 温平
 

七夕や遺影の妻とわらべ歌
假名文字の母の短冊星今宵
干瓢のなびく栃木の風みどり
干瓢の陽のかんかんと町続く
干瓢や手荒く剥かれほとばしる

 

福冨 陽子
 

芭蕉翁歩ひた路の青あぢさひ
往く往くも芭蕉の旅のいかづちは
那珂川の鮎焼雨けぶる午後
やな座敷雷唸る川光る
虹の付け根のしあわせの色は
山越へて山を忘るる人となる
風止みてほどなく県庁蝉しぐれ
カラスアゲハまよはず柚を捉ふ
布団干すその家だけは台風来ぬ

 

ヤナで作句する風薫メンバー