台風でお盆にお墓参りもできなかった方も多いかもしれません。盆休みが終わると暑さの中にも秋の気配を肌で感じるようになりますね。秋といえば梨やブドウ、桃などの果物が出回ります。私も先日、知人から桃をいただき、さっそく果実酒に漬けました。飲みごろが楽しみです。 8月18日に開催した自由俳句「風薫」のメンバーの作品を掲載いたします。
巻島 武宣
朝露を添へて眩しき茄子の棘
応援に揺れる学ランは茄子紺
茄子茗荷枝豆盛りて夏を食む
遠い夏鈍行列車の一人旅
祭笛に誘われて買うチョコバナナ
鶏頭の拳に怒り満ちてをり
蟻は死を哲学的に分解す
盆踊り君の項に見惚れおり
言い訳の長きメールや晩夏光
君恋し独り寝の夜の松虫や
丘トモロヲ
ラーメン屋彼女といつしよに行きとふて
まかなひや嫌いが好きに茄子づくし
老人食おかずは茄子と豆腐也
大竹 銀河
秋茄子や色付けもよきスパゲティ
色彩の明暗ありし南瓜かな
従姉妹子を授かり休む盆の月
わが背(せな)に休めし羽のほしき盆
盂蘭盆や終はりに近き長電話
山 多華子
茄子食べる嫁と姑無口かな
多忙に七夕忘れ茄子食べる
無駄無くも親在らずして茄子実る
花火の音(ね)茄子味わいて麦酒のむ
水茄子も水菓子以上うまかりて
渡辺 健志
手間要らず茹茄子取れる我が畑
赤茄子よ熱気で変身唐辛子
鍋底のごとし酷暑に風死せり
四十度虫も見かけぬ蜃気楼
大竹和音
軒先の西瓜の味に屋号あり
もぎたての焼き茄子あてに里帰り
稚児にキス邪魔をしやがる夏風邪め
窓越しに手をふる僕らの夏はゆく
自転車の荷台ではしゃぐ花芙蓉
岸辺にてうれし泣く君 月見草
朝顔や目覚まし鳴りて夢なかば
夏星くぐる客船に手をふれり
追悼 涅槃では衛られし君 銀漢に
小林 泰子
長ナスの水々しさに箸すすむ
口腫らしエール奏でる甲子園
ピッチャーの歪む顔に届くエール
荒木あかり
緑の稲穗水玉のせ豊かさつげぬ
蝉しぐれ参道いけば暑さ和らぐ
秋なすや皮も実も硬く我に似たり
短夜のぎいぎいの鳴き声に目覚める
雷過ぎ水増してや川匂う
白石洋一
茄子の煮浸しを冷やして食する
夕刻に踏切の鐘聞ゆ今日も定時
身体から抜け行く感覚死はこの様か
病と老戦わぬと決めた59歳の朝
幸せだったありがとうと何人の顔思うやら
闇に模様が見えた気がした深いため息
時の流れる音が聞こえた午前四時
目を閉じても闇の境を見失う
ラヂオはプチプチノイズSP盤
東西の窓を開ける風が吹き抜ける
刈谷吉見
夏は過ぐ外野フライの捕れぬまゝ
墓詣路面電車の傾ぐ音
どうしゆで父に語りぬ墓参かな
ビニール袋張り詰める茄子五つ
ゴミ袋茄子の皮つくヒルのやう
モールスのいびつな音に蟬しぐれ
大蜘蛛や祖父は右翼の大物です
もろこしの粒抜けた歯に似てゐたり
名画座に老人あふる晩夏かな
嵐来るマーロンブランド舌長し
石井温平
長らえて今年も愛し初茄子(なすび)
紫の花 紫紺の実 初茄子
無駄花の無き茄子の実のたわわなる
焼き茄子や独りの酒の身に染むる
命日の遺影の妻に茄子手(た)向く
福冨陽子
油蝉八月十日に初聞こへ
茄子の皮惜しみつ剝く手爪染まり
濃紫(こむらさき)つや玉愛でるも棘に泣く
精霊(しょうりょう)馬(ま) 子らのつくりし盆遥か
月満ちり夜半の蝉や笑い禅
無言にてほおばる北国のアイス
祭去り触覚手にした虫の居て
