本日の Favorite俳句 [ 人呑みし沼静かなり雲の峰  by 平井呈一 ] | 俳句でDiary ─ できるかな?

俳句でDiary ─ できるかな?

私の俳句 萌え萌え日記

久しぶりのお気に入り俳句カテゴリです。この句の作者・平井呈一氏は俳人でも作家でも随筆家

でもありません。名前だけ聞くとピンと来ないかもしれませんが・・・活字中毒者的には、この

平井氏の ”お仕事” には非常にお世話になりました。

人呑みし沼TOP


こんにちは、本日の季語は「雲の峰」・・・夏の季語で「入道雲」「積乱雲」のことです。

真夏の真っ青な空に、むくむく・もくもくと現れる入道雲はいかにも夏!ですよね。


雲を高く聳え立つ山に見立てた季語です。この雲が表れるのは晴れた空の時ですから、明るい夏

の昼間であり、真っ青な空をバックにした大きさを感じさせる句にするのが望ましいのです。

入道雲


また、大空や雲を詠むだけではなく 空と対照させて何か小さなものを対比させて詠むと、

双方が大小より際立って、奥行きが感じられる佳句になるでしょう。


作句上の簡単な・基本的なテクニックですが・・・


一句の中に「大きなもの」と「小さなもの」を対比させるとよい (←コレ重要!)

もしくは、雄大なものと日常的なものを一緒に詠み込む、と言っても良いでしょうか。


大きなものは例えば、空や自然現象などのスケールの大きなものや、文字通り形の大きなもの、

対して、小さなものは形が小さいだけではなく、身近なものや日常卑近なものなども当てはまる

でしょうね。或いは、人の心のちょっとした動きや様子なども・・・

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


本日掲げた句は、「雲の峰」という雄大な季語に対比させたものは、地上の「」です。

いわば、「天」と「地」を対比させた句なのですが・・・


実は、この句には先人によく似た句があります。


   しづかさや湖水の底の雲の峰         一茶


湖に空の”雲の峰”が映っている様子ですね。それを、単に映っていると言わずに、湖水の底に

雲の峰があるヨと詠んだのが面白いかも。一読して、その様が眼に浮かぶのではないかしら。

湖水と雲



しかし、本日の句の「沼」は「人呑みし」沼・・・おそらくは何人もの人がこの沼で溺れ死んだ

のでしょうね。俗に「人喰い沼」と呼ばれる沼なのでしょう。


人喰い沼、それは一度落ちたら決して助からない沼・・・。

見ただけでは分からない藻が繁茂して足を取られて泳げなくなるのか、あるいは・・・?

まるで蟻地獄に落ち込んだ蟻のように、もがいても決して助からず、多分死体も上がらないので

は、ないかしら? 太古以来、人間だけではなく様々な生物を呑み込んで来たのかもよ?


そんな「人呑みし沼」を雄大な青空の「雲の峰」に対比させているのですが、この句の妙味は

その様子を「静かなり」としているところ。

沼



そう、何人もの人の生命を呑み込んでおきながら、この沼の様子はあくまでも(見た目)静まり

返っているんだよね
。 まるで何事も無かったかのように 平然と何食わぬ顔しちゃってさ。


ええ、数え切れない程の生き物を呑み込んできましたけど、それが何か?


↑こんな風に言わんばかりにね・・・。

一読すると、この句の怖さは「人呑みし沼」にあるようですが、実は一番怖いのは この

静かなり」なんですよねー。見るからに不気味でおどろおどろしい沼ではなく、波ひとつ立た

ないような静かな様子、だからこそ 恐怖感がじわじわと増すのです。

橋のある沼



人間に例えると、冷血で残虐な連続殺人犯が見るからに怖そうな顔をしているより、見た目は

穏やかで優しげなジェントルマンであった方が怖いはず、といえば分かりやすいかも?


*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*===*


さて、作者の平井呈一氏(1902~1976)は翻訳家で、海外怪奇小説文学の翻訳先駆者として

有名な方。小泉八雲アーサー・マッケンなどの翻訳で知られていますが『吸血鬼ドラキュラ

の翻訳者といえば分かりやすいかな。

                 


また、私が以前夢中になって読んだのが このシリーズね。(英米編・フランス編その他あり)


         平井呈一



このシリーズは、海外の古典的怪奇小説の素晴らしいアンソロジーです。もはや怪奇文学の古典

と称される『猿の手』や『炎天』またラブクラフトジョン・コリア等の作品に初めて触れた

のがこのシリーズですから、私にとっては宝の山のような作品集でしたわ!


いま読むと、やや古めかしく感じられる訳かもしれませんが、古い昔の物語は、かえって古めか

しい訳で読んだほうが雰囲気が出ますよ。


無理に今風の訳にして、良い場合もありますが 逆に怖さが軽くなってしまうケースも多いので

良い意味での”古色蒼然”たる味わいにゾクゾクするのです。


また、平井氏は英米怪奇文学の翻訳だけではなく、派生して怪奇文学の何たるかを語って下さっ

た方でもありますし、御自身も二編怪奇小説を残しておられます。



【創元推理文庫 『真夜中の檻』&『エイプリルフール』が収録、他にエッセイ・評論など】


長くなり過ぎるのでストップしますが、怪奇文学等については、またお話する機会もあるかも。

だって、夏は・・・怪談の季節でもありますからね (爆

それでは、今日はこれでおしまい。またね。