安倍首相の肝いりで始まった“通信費引き下げタスクフォース”が現場を混乱させている。客足が引き、閑古鳥の鳴く販売店が続出しているのだ。だが、販売数量減に直面している大手キャリア(通信事業者)3社の反応は意外なものだった。政治主導で動いた「0円端末」廃止の余波を追った。
3月末、携帯販売店から客足がぱたりと途絶えた。本来であれば、新生活を迎える学生や社会人であふれている一番の稼ぎ時のはずだった。しかし、都心の多くの店舗は閑散としており、リストラに着手する店舗すら現れ始めている。
秋葉原に店を構える独立系販売店の店長は、悲鳴を上げる。「売り上げは例年の1割にも満たない。廃業に追い込まれた同業者もいる。われわれも事業転換を検討するべき時期にきている」。
なぜ、携帯電話
は売れなくなったのか。その理由は明白だ。
「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」──。安倍晋三首相が“鶴の一声”で携帯料金の引き下げについて発言したことを受けて、昨年末まで開かれた総務省のタスクフォースだ。この場で、端末販売価格の適正化が俎上に載せられたのだ。
昨年12月18日には、高市早苗総務大臣が大手キャリア3社に対して異例の要請を行った。販売価格を超える過度なキャッシュバックを控えるよう強く求めたのだ。
その結果、MNP(携帯電話番号ポータビリティー)を利用した「0円端末」は店頭から消えた。これまでのような値引きが行われなくなったことで、新たな端末を買い控える利用者が急増。多くの店舗が、前例のない販売不振に苦しんでいるのだ。
こうした動きに対して、表面的には、キャリア3社の反応は割れた。KDDIの田中孝司社長は、「来店者数が大幅に減っており、今後の動向について現時点では読めないというのが偽らざる認識」と危機感を募らせた。
一方、ソフトバンクの宮内謙社長は、「キャッシュバックを廃止する前と比べると販売数が大きく落ち込んでいるのは事実だが、昨年の同時期と比較するとそこまで深刻な減少ではない。むしろ他社と比較すると大きくシェアを伸ばしているのが実態」と強気の姿勢をアピールした。
他の2社に対して、これまで過激な値下げ合戦に加わってこなかったNTTドコモは静観の姿勢を崩さない。「確かに、2月は客足が遠のいたが、今月に入って徐々に戻りつつある。過度な値引きが廃止されたことは、むしろわれわれにとって歓迎すべきことだ」(ドコモ幹部)。
もっと取材を進めていくと、実はドコモのみならず、他の2社も、「0円端末」廃止に安堵している姿が浮き彫りになってきた。
これまで、キャリア3社は端末代金を肩代わりすることで他社からの乗り換え客を獲得し、流出分の減少を補ってきた。今回のキャッシュバック撤廃により、端末価格がアップし、利用者はキャリア間の乗り換えを控えるようになった。3社横並びでの「0円端末」廃止は、販売促進費を投じて薄利を奪い合う戦いを終結させて、業界を健全化へと向かわせる効果があるのだ。
● MVNOの台頭で顧客争奪戦は第2ラウンドへ突入
あるキャリア幹部は証言する。「株主対策として、建前では契約者獲得の追求を打ち出してはいる。だが、安倍首相発言よりも前から市場は成熟しており、無益な顧客争奪戦に終止符を打ちたかった」。
あるソフトバンク関係者も、「0円端末の廃止による販売数量減はあまり気にしていない。経営に与える影響は軽微だ」と言う。キャリア3社の関心は共に、むやみに契約者獲得を追求することではなく、囲い込んだ契約者のアープ(1人当たりの平均売上高)を上げることにシフトしている。
もっとも、これでキャリアによる囲い込み態勢が盤石になったかというと、話はそう単純ではない。
確かに、キャリア間の移動は減ったのだが、代わりにMVNO(仮想移動体通信事業者)の台頭が無視できなくなってきたからだ。
総務省が3月16日に公表した「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、それまで毎月50万件前後で推移していたMVNO契約者の純増数は、昨年後半から急増し、12月時点で87万件、総契約数は1155万件に達している。
今夏にも、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手のLINEがMVNO事業へ参入する方針を表明しており、これまで30~40代の男性が中心だったMVNO契約者の裾野が、若年層や女性へ広がることは明白だ。
今後、キャリア3社とMVNO事業者との間で激しい競争が繰り広げられることは間違いない。「0円端末」廃止でホッとしたのもつかの間、キャリア3社に新たな敵が襲い掛かってきているのだ。
価格面では不利な立場にあるキャリアは、いかに付加価値を生み出し顧客をつなぎ留めることができるのか。顧客争奪戦の第2ラウンドは始まったばかりだ。