前回に引き続き、幽助の言葉が魅由鬼にどんな意味を持ったか話していきます。
一番の苦しみ 1/5
1、最悪の決めつけ
2、抱えきれない苦しみ
3、溢れる自信の正体?
4、信じていたのに・・
5、本当の理由
1、最悪の決めつけ
「いや、一応女だったら手加減しようと思ってな、
確認してみたんだ。
そいつは女じゃない、男だ!」
前回話した通り、幽助は魅由鬼に、こんな言葉を投げかけます。
前回話したように、「女相手に手加減する」と彼女を裏切ったことに加えて
こう言ったのです。
「そいつは女じゃない、男だ!」と。
今回は、この言葉がいかに彼女を傷つけたかについて話していきます。
まず彼女は、裏切られたこと以上に、自分のことを「男だ」と言われたことが許せないように見えます。
それは、この後の彼女の「差別だわ〜」のセリフで、性別で区別することへの抗議よりも、心は女だということの方がより強く訴えていることからも読み取れます。
彼女にとっては男扱いされることは、よりショックが大きかったのです。
そして幽助のこの言葉は
彼女の心をどん底に突き落とします。
具体的に話していきます。
まずそもそも、そんな言葉はトランスジェンダーにとっては最も聞きたくない言葉です。自分が男だと見られることは、彼女のような人々であれば誰もが抵抗を抱くものです。
しかも魅由鬼は、以前話した通り「自分は女性だ」と思っているわけです。
体のことが知れても当然のように女性として扱ってもらえると考えています。まさか男と思われるなんて思ってもいないのです。
そんな魅由鬼を指して幽助は、はっきりと、
「そいつは男だ!」と言い切ります。
そもそもなぜ男だと判断したのか。
その理由については、
「胸は膨らませてただけだし、下にはついてるから。」
つまり、「体が」男だから、とのことです。
しかし体が男だといっても、幽助自身も「胸はパッドか注射かわかんねえ」と言ったとおり、
胸は豊胸手術してる可能性もありますので、そうなると
体の中で男性の部分だとはっきり言えるのは
その下にある男性器の存在「だけ」です。
しかし魅由鬼は見た目から声、服装や口調、振る舞いに至るまで、どう見ても女性です。
つまり、幽助は
人の股下に無理やり手を伸ばした上でそこを勝手に触っておいて、
そこにものさえあれば、他の全てが女性であったとしても、
下がそのままになっているというただその一点「だけ」の理由で
男だと決めつけ
決して女性としては扱わないのです。
2、抱えきれない苦しみ
そんな理由で幽助は、魅由鬼を男と決めつけ、
彼女を何より深く傷つける、そんな一番言ってはいけない最もひどい言葉を軽々しく
言い放つのです。
そもそも「もの」があるということは、
トランスジェンダー女性にとって大きなコンプレックスであり、
また、女でないというれっきたした証明でもあります。
魅由鬼はその存在をそれほど気にしてないとはいえ、
彼女にもそれがあることは紛れもない事実であり、
言い換えれば、
忘れかけていた最も嫌な現実でもあります。
その現実がふとしたきっかけで呼び起こされることで、
むしろ忘れかけていたからこそ、その嫌な思いが一気に呼び起こされるのです。
自分が男であること、男として見られていたこと。その途方も無く耐えきれない苦しみが魅由鬼を一気に支配します。
しかも魅由鬼はそんな苦しみを
既に限界を迎え、これ以上立ち向かうこともできない、弱りきったその心に叩きつけられるのです。
更にその上、この苦しみは
幽助に男だと言われたことでその蓋をこじ開けられることだけではなく、
それまで自分が数々の理不尽な所業を受け続けたのは、理不尽でありながらも抗うことさえ許されず一方的に被害を被る以外許されなかったこの苦しみは、
全て自分が男とみなされて行われていたんだったんだと
遡及的に魅由鬼を追い詰めます。
彼女はなんの前触れもなく、突然、あまりにも突然、
かつ思い切り強力な、彼女を思い切りどん底へ叩き落とすような耐えるに耐えられない辛すぎる不遇を受けるのです。
こんな気が狂いそうな、魅由鬼があまりに不憫な強烈な仕打ちを幽助は、
いとも簡単に、とても軽々しく行います。
それほどに、それほどまでに、幽助にとっては
魅由鬼にとっての大事なことなど尊重に値しないのです。
そして魅由鬼はこの言葉を受け入れられるほど強くありません。
それは「体は男でも心は女だ」と訴える際の怒り具合からも推測できます。
魅由鬼からすれば、幽助からは色々嫌なこともされたけど、
それでも幽助が自分に手加減しないのは、幽助が
「女でも手加減しないから」
であり、
あくまで
自分は女だと思われている
と信じていました。
しかしそれは全くの見当違いだったのです。
魅由鬼の思いなど一切関係なく、幽助は彼女のことをはっきりと男として扱い、
彼女の心が傷つくことなどお構いなしに彼女の思いを否定するのです。
そして完全に、これ以上ないほどに追い詰めに追い詰められた魅由鬼は、気が狂ったように、幽助になんのあてもないまま飛びかかるのです。
3、溢れる自信の正体?
しかし、そこまで自分が女だと思ってもらえると強く信じられるほどの、その
溢れる自信の正体は何だったのでしょうか?
少なくとも今の魅由鬼にとってそれは、男性の体でいる苦労や、奇異な目で見られる苦悩を乗り越えた強さではないでしょう。
それは男性扱いされて感情をあらわにして猛反発していることからも明らかです。
ここから先の話は、あくまで根拠のない推測の話になりますが、
であるとすれば、他にその自信の正体として考えられるとすれば、それは、
男性扱いされることなど皆無に等しい環境からできたもの
ではないでしょうか?
まずその外見に関しては言うまでもありませんが、桑原やぼたんが全く疑っていなかったように、今の彼女がその外見から男性扱いされることなどほとんどありえなかったでしょう。
そして自分の体のことが知れてもなお、今まで男性扱いされることはなかった。
と、少なくとも魅由鬼自身はそう思っているのではないかと思っています。
なぜそう言えるのか説明していきます。
そもそも彼女がその体のことが知れるのはどんな時か。
妖怪の世界は力の強さがものを言い、己の野望のために生きている印象があり、人間の世界ほど社会性があるようには見えません。彼女のように人間界で暮らしているであろう妖怪にとっては特にそうでしょう。
そのことからも社会的な理由で彼女の正体が知れることは考えにくいので、人や、他の妖怪が彼女の正体を知ることあるとすればそれは、
彼女から直接言われるか
彼女の裸を見た時、つまり肉体関係を持った時
ぐらいでしょうか。
そして、その「人や他の妖怪」も、彼女に選ばれた人物です。
彼女ほど気品に溢れ、誠実な心を持った人物が選ぶ相手であれば、その相手もまた、それに見合う人物でしょう。
そんな人物が、いざその時に彼女のその体にあるものを知ってしまったとしても、心が女だと言って見た目もこれだけ女性らしい彼女を男性扱いするでしょうか。
そうして彼女も、もしかしたら最初は体のことを気にしていたかもしれませんが、
妖怪ならではの長い寿命と増やしていく経験人数から、徐々にそれを気にしなくなった。
そうして、
「男性器があっても私は当たり前に女として見てもらえる」
「私は男性器の存在など関係なくいい女だ」
という自信ができあがっていった。
見返すと少し乱暴な推論な気もしますが、これだけ美人で自信に溢れていることを考えればあり得る話でしょうか。
4、信じていたのに・・
彼女は幽助のことも、最初の時点ではその姿勢を信じて認めていた。
だからこそいきなり股間を触られたとしても、今までのようにそれで男性と思われたとは考えず、
幽助が自分の体を触ったのはただのスケベ心からで、まさか自分が男かどうかを確認して手加減するかどうかの判断材料にしていたとは思っていなかった。
というより、女性として大事な胸を触られて動揺しているその時の魅由鬼にそこまで考えるほどの余裕はなかったと思っています。
しかしそう考えると、
彼女の自信を支えていたものは意外にもろいことに気付けます。
理由はどうあれ、魅由鬼はここまで女性らしくなれた以上、今さら男性扱いされることはまずないと考えているわけです。
それを
ここまではっきり「そいつは男だ」と言われるのです。
これだけ女性らしくなるための努力もしてきたのに、
幽助はそれを全く認めてくれず、
自分の下にあったという一点だけで自分を男だと決めつけ、一切女として見てくれないのです。
それはまるで、隙だらけになっている魅由鬼の急所に
まるで遠慮のない渾身の、到底耐えられないような強力な一撃を食らったような、
そんな苦しみを与えられたのです。
これによりどれほど彼女の心は傷ついたことでしょう。
5、本当の理由
魅由鬼からすれば、繰り返しになりますが、
真剣に幽助との戦いに向き合い、
そんな中で不埒な真似をされた上に馬鹿にまでされて。
軽くあしらわれる扱いまで受けて
誠実で真摯な姿勢さえも否定され
あらゆる自信を削られた。
それでも幽助が最初に言った言葉を信じていた。
自分にここまで容赦しないのは、
「女だろうと手加減しない」という幽助の姿勢からだと信じていた。
だから自分が女であってもこんな目に遭っている。
それでもちゃんと女だと思われてるし、
性別で戦いを区別しないという価値観をわかりあえている。
だからこそ魅由鬼は、容赦無く執拗に反撃を受け、その上胸を触られ殴られ、挙句、軽くあしらうような扱いまで受けた上にその流れで顔まで蹴られるという
屈辱の限りを受けて怒り心頭になりながらも、
それでも幽助の言葉を信じ、
そこに関して彼を認めていたからこそ精神的にもなんとか耐えられた。
と思っていたら
そうではなく、
そもそもから自分は男だと見られていて、
手加減がなかったのもそれが本当の理由だった。
価値観など最初からわかりあえていなかったし、
自分との約束なんて最初からなんとも思われてなかった。
その上簡単に自分を男扱いするなど、
自分の思いなどまるで大事にされず、
不埒な真似をされた上、馬鹿にまでされ。
屈辱を味わわされてあらゆる自信を削られた挙句
適当にあしらわれてきた。
魅由鬼の、収めるところも既にないところに更にそれ以上が加えられ、溢れ切って限界を超えたその途方もないストレス。それが魅由鬼に自我を失わすほどに狂わすことはあまりに容易だったことでしょう。
今回は以上です。
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