「国語教師の勇気」 | はぐれ国語教師純情派~その華麗なる毎日~

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国語教師は生徒に国語を教えるだけではいけない。教えた国語が通用する社会づくりをしなければ無責任。そう考える「はぐれ国語教師純情派」の私は、今日もおかしな日本語に立ち向かうのだ。

 先日、市の教職員検診があったんです。市内の半分ぐらいの先生はすでに前日に終了していました。会場は市内のTセンターでした。

 朝の8時過ぎに受け付けをして、まず1階で身長・体重・腹囲の測定、血液、血圧、内科検診、視力、胸部X線撮影、胃カメラの各検査を行いました。

 

「次は2階に行っていただいて、聴力検査と心電図です」

 

と案内されて、1階の会場を出てホールの方向に向かいました。

 

『どこかな?』

 

と思いながら進むと、すぐに案内ボードを発見できました。

 

聴力・心電図 2Fこちら ⇒」

 

 困りました……。案内ボードのすぐ後ろには階段があるんです。さらにその脇に、階段が大変な人のためのエレベーターもあるんです。だから、当然、

 

「『こちら』なら、この階段かエレベーターで上がったところに会場があるんだな?」

 

と思うわけですね。でも、案内ボードは「⇒」と、右奥の離れたところにあるある階段を指しているようにも思えます。右奥の階段というのはそこから何十メートルも先にあるのです。

 指示語の「こそあど言葉」は、近称を「こ」で表し、「遠称」を「あ」で表します。授業で生徒達にはそう教えています。その日本語が正しいなら、明らかにこの案内ボードは「意味不明」です。

 私は、恐る恐る「受付」の2人の女性に、人差し指で方向を指さしながら尋ねました。

 

私 「すみません。聴力検査と内科診断は『こちら』の階段からですか? 『あちら』の階段か

  らですか?」

受付「あ? あちらです」

私 「じゃあ、これも本当は『あちら』なんですね(笑)」

 

 検査が終わってから同じところを通ると、案内ボードの「こちら」の「こ」の字が「あちら」「あ」の字に直されていました。(笑)

 それにしても検診は2日目。多くの先生方が「遠回り」したり、判断に「迷ったり」しながら受診したのでしょう。みなさん奥ゆかしく、どなたも指摘しなかったのでしょうね。

 でもね、例えばお店が、使えない不良品を売ってたら信用を失います。国語教師もそうじゃないでしょうか? 生徒が授業で教わった言葉が社会で通用しないようであったら国語教師は信用を失います。もし、社会において間違った言葉が使われていたら、国語教師は社会における言葉の使われ方を正して、生徒の学習を守らねばなりません。それには少々勇気がいります。