12 八幡平

 

八幡平の火口湖めぐる道行けば空一面に秋あかね飛ぶ    鈴木 英一

 

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https://www.shin-araragi.jp/toko_bn/bn_20/toko2001.htm

「新アララギ」の短歌投稿HPに唯一「八幡平」でヒットした短歌

残念ながら八幡平を直接詠んだうたはこれしか今はない。

他に結城哀草果が、八幡平に来てうたった歌が3首見つけてあるが、それ以外は今のところ見つかっていない。短歌に恵まれていない山だ。

 

結城哀草果 鶯の啼く高原に雨ふりて流る水は川のまなもと

        ま夏日は照りかげりつつ北開く青谷に寄りてひたすら下る

        八月一日のついの日ひかげまともなる赤き鋭き峰々てらして

 

実際に歩いて詠んだ歌ですね。私が見つけたのは結城の歌集「群峰」の中の歌だが、3首あって「八幡平」は出てこないので取れないが、紹介する。

「日本山岳短歌全集」に源太ケ岳が1首あった。

 

武島繁太郎  陸奥と羽後の国教なる源太ケ岳いまだは暮れず郭公のこえ

 

源太ケ岳とは八幡平のエリアの南に位置して大深岳に並んであり、松川温泉に抜ける儒走路にある山です。私は山を踏んで松川温泉に縦走した。

名の知れた歌人では、佐藤佐太郎が八幡平を訪れているようだ。佐藤佐太郎と斉藤茂吉を研究している岩田亮氏の短歌工房というブログに

 

佐藤朔太郎  熱にふけし如き色をもつ石の原底ごもり鳴る音ぞきこゆる

 

があるが、八幡平を直接詠んだものではない。

「群丘」所収。1959年(昭和34年)作。・・・岩波文庫「佐藤佐太郎歌集」

(八幡平の石原の歌・佐藤佐太郎の短歌 - 岩田亨の短歌工房.

https://blog.goo.ne.jp/uh1960apple1999uh2005/e/349460a42a2d92dab7dff326c81907e6

に取り上げられていて、佐太郎の自註として、

「そこ(八幡平の泥火山)を過ぎて広い石原がある。いたるところに噴煙が立ち、地下で風でも吹いているような音がこもっている。噴煙の硫気に焼けた石はたとえば麹のかびのような色をしていた。」(「作歌の足跡-海雲・自註-」)と岩田は紹介している。

岩手には「ぬはり短歌会」という大きな結社があったり、ネットの当りがよかったのだが、残念ながら収穫が1首しかなかった。

MENU | ぬはり社短歌会 

Https://nuharitanka.amebaownd.com/pages/1979268/menu

ふるさとは夏草ふかみさらさらと きりふりなびく音ばかりなり

(歌碑: 岩手県八幡平市大更にある)

 

八幡平は、上の鈴木氏の歌をもって良しとすべきか。残念だ。

来嶋靖生著「歌人の山」という本があって、彼が最初に取り上げたのが八甲田山で自分も歩いているのに、八幡平には行っていない。言っていたならば惜しまれる。

このように短歌の世界では不遇なやま山であると言える。

 

深田久弥は、八幡平の「たいら」を「タイ」と呼ぶのは、「八甲田山などに多い「岱」と同義語であるからだろう。タィとは山上の湿地帯の意で、あるいは古語のへ田井から来だのかもしれない」と言い。「八幡」は、「坂上田村麿が東征の折、敵を追ってこの高原に踏みこみ、あまりにも美しい景色に感動して、八幡大神宮を勧請し戦勝を祈願した、それが名の起りだともいう。」とも書いている

この地域が広く知られたのは大正時代の「十和田・八幡平国立公園制定以来のことだろう」と言い、「人々がそういう高原に美を見出すようになったのは、比較的近代のことで、それまではそんな山奥へ入るのは、鉱山の人か、鄙びた湯へ湯治に出かける村人以外にはなかった。何しろ山深い不便な地であって、花輪線が通じる以前は、どちらから行っても数日はかかった」と言われ、私にとっても、昭和40年代まで遠い存在であった。

「八幡平の最高点は一六一四米の三角点のある所だが、特別に峰と称するほど際立ったものではない。茶臼、安比、畚、杣角、それらの山々の間に拡がる高原状の全山地を指して、八幡平と呼んでいる。中でも最高三角点を中心として、東は源太森、南の見返峠までの地域は、殆んど平坦な原と言っていい」と、深田は短く表現している。

 

私が八幡平を歩いたのは、1992年10月の初めに妻と歩いた。

https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-118191.html

 

妻と歩いた八幡平

端正な姿を見せて岩手山八幡平の真向にあり

緑濃く十月なれども八幡平夏の陽つよく秋さまよえる

八幡平高原逍遥楽しめば妻若々し山のあかるさ

八幡平原ひろくして穏やかに妻と語らうそよ風のふく

鳥海も秋田駒まで眺めえる「もっこ」と呼べる山の頂

縦走す若者四人さわやかにあいさつしていく諸檜山の上

険祖森どこがいったい険なのか薄雲の空高く広がる

鏡沼青める水面神秘なり太古の昔火を吐きたるに

東西に太巻きの雲伸びていて岩手山がその下にある

岩手山間近に見えてなおさらに登りて見たし裏からの道

(翌日)

一晩の夜雨が降れば八幡平秋色になり肌寒し

秋に染む八幡沼に音もなく雲の覆える原の際まで

八幡平山頂と言う原の点静かに止る時のあるかも

八幡平沼の傍ら立ちたれば時止まるなり太古の時に

(玉川温泉)

その名聞く玉川温泉地獄谷冬の湯治場雪いかほどか

雨ふりに地獄めぐれば湯けむりがさらに激しく吹きあがる