栃木県幼稚園連合会 青年部さま オンライン園庭研修 ご質問と回答2 | 心と体と学びをはぐくむ園庭を

心と体と学びをはぐくむ園庭を

幼稚園 保育所 認定こども園の園庭を、子どもが伸びやかに豊かな育つ場所にしませんか?

こんにちは、園庭研究所の石田です。

 

栃木県幼稚園連合会 青年部さんオンライン園庭研修で頂きました、ご質問や課題点の続きです。

(関連記事→ご感想ご質問1

 

  • これからを生きていく子ども達は、限られた環境の中での遊びや生活を強いられていくのではないかと不安になりますが、先生にとって、乳幼児期にとって園庭の環境でこれは大いに経験することが望ましいという環境を教えていただけますか。限られた園庭においても、これだけはっといったものがありましたらお願いします。

 

(お返事) これは各園の理念や思いが関わってくるので難しい部分ではありますが、私個人的には、いろいろな種類の木々が草花があり、ちょっとした丘があり、子ども達が自由に持ち出したり組み合わせたりと工夫して使える素材(ロープや布、タイヤ、板、容器など)があれば、もうそれだけで十分なのではないかと思っています。

 

合わせて、大人が遊び方をコントロールするのではなく(木登り禁止などはなく)、子ども自身が考えたり子ども達と先生とで一緒に活動を考えていく状態であれば、子ども達は日々の中で様々なことを感じ、考え、体を使い、学び育って行くのではないかと思います。

 

また、園庭とともに、地域に出かけて様々な人や物事に出会ったり、年に何度かは地域の山や川辺など大きく豊かな自然地に行けると良いのなかと思っています。

 

 

  • 自分の園では、地面が砂で、転んで血が出てしまう子どもたちを思い出し、地面を芝生にしたら、もっとみんなの行動意欲が上がるかもしれないが、芝生を植えることや整備の難易度のことを考えると課題である。

 
  • 研修の中にありました研究の部分で、芝生の研究において、女児の運動量に変化が顕著にみられたとありますが、それは 女児における何が関係しているのでしょうか。汚れることへの抵抗感が女児に強くでる傾向があり、結果芝生になるとその要因が軽減されるということからきた結果なのでしょうか。

 

(お返事)芝生は子どもがよく通る場所ですと育ちにくい課題もあります。肌触りは良くないですが日本芝(高麗芝など)は比較的強いので、強い種類を選ぶのも一つの方法です(日本芝は冬場は枯れます。西洋芝は柔らかく常緑ですが、比較的弱いです。)また、鳥取県では「鳥取方式の芝生化」に取り組んでおり、ポット苗を植えて芝が根を張りやすくする手法を取っていますので、よろしければ検索してみて下さい。

 

芝の場合は雑草も生えやすいですが、綺麗な芝生を目指すのではなく、雑草と合わせた芝生地として取り組まれると、維持管理も楽になるかと思います。

そして、芝生だけでなく、クローバーや雑草などによって、地面を覆う方法もおすすめです。特に雑草は、昔から多種多様な遊びを子ども達に提供してくれました。四季折々の変化を与えてくれるのも雑草の良さですね。

 

先行研究で示されています、「特に女児の運動量の増加」についてですが、これは元々女児の方が男児よりも運動量が少ない傾向があるところに、地面が芝生化されることで、低い姿勢で遊んだり(ごっこ遊び等)痛さや汚れへの抵抗感が緩和されたり、芝生地への移動したりすることで、変化が大きいのでだろうと研究者は考察しています。

特に、雑草など摘んでも良い草花エリアやその傍にちょっとしたごっこ遊びスペースがあることで、特に草花遊びなど摘んだり創作したるするのが好きな女の子は、その周辺での移動が増加するのではなかと思います。

 

写真は、スウェーデンのUtsikten förskolan(ウートシクテン就学前学校)です。草地にしゃがみこんで遊ぶのって楽しいですよね。

 

 

  • 危険を排除するのではなく、回避するための具体的なポイントが教えてください。

 

(お返事)

以下のように考えています。

 

1)情報共有・蓄積:

先生方が日々感じるヒヤリ・ハットを個々人の胸の内に留めず、園内で共有する仕組みを作る。共有されたものを分析し改善する(安全対策チームを作って分析・対策しても良いと思います)。そのヒヤリハットやトラブルの状況や、対策、その後をデータにしておく。

 

2)子ども自身の回避力・対応力の育成(子どもとのセイフティトーク):

先生方が日々感じるヒヤリ・ハットを子ども達にも伝え、一緒に考えるようんする。その際には「これが危ないから止めましょう」ではなく、「先生はこういうことが心配なんだけど、どうしたら良いかな?」という風に、先生個人の気持ちや感覚として伝えて、子ども自身が考えられるようにされると良いかと思います。4-5歳になってくると子ども自身も考える力が育って来ており、また5-6歳にはクラス内で話し合うことも可能だと思います(実際、危ないことに対して年長さんクラスで話し合っている園もあります)。

※ 危険に対する感覚は個々人で異なるため、先生も自身の感覚や気持ちを大切にされ、口にされることで、子ども達も自身の危険への感覚や気持ちを表現しやすくなるのではないかと思います。

 

3)年上の子から年下の子へ継がれて行く:

上記の2はすぐには上手く回らないかもしれませんが、2を少しずつ取り組んで行くことで、2を身につけた年上の子が、年下の子に伝え、という危険回避・対応のよい循環が子どもの間で生まれて行きます。まずは一歩踏み出していただけますと幸いです。

 

4)五感や身体を様々に使える環境や活動:

危険を察知するには、まずは五感(見る聞く触る味わう嗅ぐ)が極めて重要になります。そして察知した危険に対応するだけの、様々な面からの身体能力が必要になってきます。そう考えた時、五感で楽しめ、様々に身体を使える環境を整えて行くことは、危険回避・対応力を養う土台となるのではないでしょうか。

 

 

  • 園庭に力を入れている知人に相談し、専門家を紹介していただきましたが、かなりの金額がかかり断念しましたが。

 

(お返事)そうなんです…。実は今の日本で「園庭」をうたっている造園・建築会社は両手で数える程度しかありません。ただ、そうした会社ははやり高額なのが現状です。

 

ただし、庭は自然が多く関わってくるものであり、また日々刻々と変化するため、やはり園庭に最も適した施工者は地域の造園屋さんや工務店さんだろうと私は考えています。土壌や植物は、その土地土地で異なり、その地域にあった内容を考えて行くことが健全な庭につながります。そして、ちょっとした合間に園庭の様子を見に来て園へ助言して下さったり、子ども達に動植物のことを教えて下さったり、良い素材が出た時に提供して下さったりと、日頃の連携をしやすいのもやはり地域の造園屋さんや工務店さんです。

 

今の日本では、乳幼児の発達について精通している造園屋さんはほとんどいません。けれども、乳幼児の発達のプロフェッショナルは園にいらっしゃる訳なので、先生方でどのような園庭にしていきたいかを十分に話し合われた上で、地域の造園屋さんに「こんな園庭にしていきたいけれど、相談に乗ってもらえませんか?」と相談してみてください。それで、一緒に話し合って創ってくださる方なら大丈夫だと思います。もし話し合いは拒否し一方的にデザインを提供しようとする方なら、別の方を探して頂ければと思います。

 

園内での園庭についての話し合いは、園庭研修のようなものを定期的に行ったり、各先生が日頃思うことを表現できる機会を持ち(園庭マップを職員室に貼り気づいたことを付箋付けする、園庭ノートを作成し回覧する、など)、実働部隊としての園庭チームを組まれると良いかと思います。

 

園庭専門業者から、遊具等を購入したり園庭専用デザインをお願いすると高額になりますが、子ども達にとってのより良い園庭環境は、そうした設備(遊具)や専用デザインが必ずしも必要な訳ではありません。

 

お金をかけずに、子ども達が日々遊び学び育って行ける環境を作ることは可能です。例えば、いろいろな道具や素材は、購入しても安価ですし、各家庭にあるものを持ち寄ったり、地域の方々に「こういう物をお持ちなら分けてください」と声をかけておくことも良いでしょう。植栽も同じく、保護者さんや地域の方に声かけされると良いかと思います。

 

また、保護者の方の中には、造園や工事ができる方、自然に詳しい方もいらっしゃるかもしれません。

ある公立園さんでは、先生方が園庭研修を経て園庭改造案を考えられ、それを保護者会で発表され、保護者や地域の方へ素材や人材を募られました。

 

保護者さん、地域の方々と連携し、皆で園庭を楽しみながら育てて行ってくださいね。

 

 

色々な園さんや都道府県や市区町村での研修に伺っていますと、園庭での保育で皆さんが悩まれていることは、決してお一人/一園の悩みではないことが分かります。
 

皆で一緒に、園庭や地域での保育の良さも課題も話し合いながら、子どもたちにとってより良い環境や暮らし・活動へと取り組んでいければと思います。^^

 

 

園庭研究所 代表 石田佳織

お問い合わせ: 電話:080-2381-8611  /  メールを送る

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【園庭や幼児と自然のについての著書】

『園庭を豊かな育ちの場に:質向上のためのヒントと事例』

園庭園庭全国調査に基づいて、園庭での保育・教育の質をより高めるための視点や工夫をご紹介しています。面積が小さな園や制約がある園での工夫や、地域活用の工夫もご覧いただけます。

* 2019こども環境学会賞【論文・著作賞】を頂きました。

 

『森と自然を活用した保育・幼児教育ガイドブック』

石田は以下を担当させていただきました。→第1章5「幼稚園施設整備指針と園庭調査を踏まえた屋外環境のあり方と自然」東京大学Cedep園庭調査研究グループ/第1章8「幼稚園教育要領等の5領域に合わせた先行研究」北澤明子, 木戸啓絵, 山口美和, 石田佳織

 

『保育内容 環境 第3版』

石田は第6章4節「自然環境と持続可能な社会」を担当させていただきました。