走るのが速いヤツと走った方が速く走れる
ここの大学に入りたいと志望校を決定するとき、自分は将来これこれをやりたいからこの学問を研究し、必要な専門知識と技術を身につけるために、この大学のこの学部を選択する、などという明確な理由を持っている人は少ないと思います。
そして、このように明確に決定することは、あまり可能なことだとも思いません。
医者や弁護士、建築家などになりたいと希望しているのなら、自ずと志望する学部は決定されますが、理系と文系だけが決まっていて、あとは漠然とした大学というもののイメージしかないことが殆どだと思います。
大学ではどのような学問をやっていて、それはどんなことなのか、というのは入って体験してみないとわからない場合が多いように思います。
私は漠然と文学部に入って、日本の文学でもやりたいと思っていましたが、ある日キャンパスを歩いていると、文系学部しかないキャンパスなのに白衣を着た学生らしき人達が歩いているのを目にしました。
なんだあの人達は、という疑問を抱きながら心にとどめた私は、その後クラスの担任を補佐する役目の大学院生と親しくなり、その人がやっている心理学の研究室に出向くことになりました。
その研究棟に入ってビックリ、当時とても珍しかったコンピューターが何台もあり、自作らしいそのコンピューターを連絡するケーブルが室内を這い回り、画面には数式と英語らしき文字がびっしりと流れていくのです。
更に驚いたのは、ハトをたくさん飼っていて、これは何をするためのハトですかとたずねると、実験をするためだと言うのです。
実験 !!!!
ここは文学部だぜ、と思って近くの机や本棚を見るとわからない英文の本とともに、因子分析法だの、数量化だの、数学関連の書籍が並んでいるのです。
そう言えば授業でも川魚の行動についての映像や、人間に対する心理学テストの講義をやっていました。
研究室内では、刺激、被験者、出力、固有値、ベクトル、主成分などという専門用語めいた言葉が飛び交い、理学部なのかここは、というような錯覚を覚えるくらいなのです。
大型コンピューターの分厚い出力用紙を前にして、数字がびっしり並んだ中を指さしながら何か言っている白衣の大学院生がとてもまぶしく見えました。
私が実験心理学というものに触れた最初の瞬間です。
高校では心理学という学問があることは知っていましたが、こういうこともやっているのかと驚かされたのです。
それ以降、私の進路が決まりました。
わからない工学部の講義をとらされたり、当時広尾の忠臣蔵に出てくる南部坂近くにあった統計数理研究所という施設でセミナーを受けたり、理系学部のような授業で全くわからない日々が続き、完全に落ち毀れる毎日でしたが、とても刺激的な毎日となったのです。
今、昔とは違い、文学部、経済学部、商学部など、各学部での学問はその学部にとどまっていることなく、他の学部の授業が単位になったり、他の学部の先生の授業が組まれていたりと、かなり学際的な、つまり開かれた学問環境になっています。
他大学の授業を単位として認める大学も少なくないようです。
つまり、学問領域が拡張され、広がりを持っているのです。
また、私の体験のように、大学は入ってみなければわからないところが多いと思います。
というわけで、何がいいたいのかと言いますと、大学と学部選択に窮屈な理論や理由はいらないということです。
漠然とした憧れや、知っている先輩が活躍しているとか、なんでも良いのです。
ただ、できれば、より困難な大学を選択した方が良いとおすすめしたいと思います。
それは、周囲の連中がデキル人達だと、自然と自分も頑張らずにはいられなくなり、自らの可能性が開けるからです。
自分よりかなりデキル先輩が、私の二倍、三倍も努力している姿を見たのは、とても衝撃的でした。
土日も大学に来て机やコンピューターに向かっているのです。
また、帰国子女でもないのに英検一級などという人間も珍しくなく、暇さえあれば洋書を読んでいる友人も多いのです。
走るのが速いヤツと走った方が速く走れるというものです。