小論文は背景知識や例が浮かばなくても慌てることはない | 最強最後の十年を望む

小論文は背景知識や例が浮かばなくても慌てることはない

小論文の題材に対する背景知識は、無いよりは、有った方が良いのは当然だと思います。

哲学や科学、環境問題や経済、そして時事問題などが出てくる現代文や英語長文についても、背景知識があれば解き易いでしょう。

嘗て早稲田の国際教養で、アインシュタインについての英語長文が出題されたことがあります。
その生い立ちや、相対性理論発表時の経緯について知識を持っていた私は、本文を読まなくても設問の問いの文章を読むだけで解答できる問題が多かった経験があります。

背景知識というものの威力を悟った問題でした。
背景知識を得るために、新聞やテレビ、啓蒙書や新書に目を通しておいた方が良い、というアドバイスを目にすることもありますし、私もするときがあります。

しかし、受験生にどれだけ新書を読む機会があるでしょうか。
一冊くらいなら読んでいる時間があるかもしれませんが、一冊読んだからといって、すぐに何かが変わるわけでもありません。

2011年の慶大法学部の小論文に、
筆者の抵抗権についての捉え方を整理したうえで、実定法を超えた抵抗権について、具体例を交えて論じなさい。
という問題が出ました。

これだけでは、なんのことかわからない人は多いと思います。法学部を受けるからといって、『実定法を超えた抵抗権』について、なんらかの知識を持っている人はそんなに多くないはずです。

仮に、小論文や英文読解、現代文の問題について、背景知識が必須であるならば、それは随分と偏った試験なのではないでしょうか。

大学側は、物事に対する興味や社会問題についての意見を問うことはあっても、特定の知識がなければ解けない問題を出すことは殆ど無いと思います。

傾向を分析して、特定の背景知識や考え方が求められているのなら、あらかじめそれを持っていなければなりませんが、多くの大学では、出題された小論文の課題文を読めば、必要な知識や考え方は得られることが大部分のはずです。

背景知識が必須である論文形式、例えば東京芸術大学などの小論文の他は、課題文を読めば論述できるようになっています。

逆に、上記の抵抗権などについて多少とも知識があると、それを書きたくなって、題意とズレた内容になってしまう危険もあるでしょう。

大学側は、特定の知識を持った人だけを選択するのではなく、より優秀な学生を選抜したいはずです。
商学部だから、マーケティングの知識を持った学生を選択したいのではなく、商学部だからマーケティングに関する問題も出題するのです。

そのとき、問題に解答するための知識や考え方は、出題された課題文に網羅されているか、推測できるようになっているはずです。

上記の抵抗権についても、課題文を読めば特別な知識を必要とせずに解答できるようになっています。

では、『具体例』は、どうすれば良いのでしょうか。
具体例を二つ入れて論述せよ、なんていう設問もあります。

やはり、関連する知識や社会の動向に注意していなければならない、ということなのでしょうか。
模範解答では、尖閣諸島の問題や信教の自由、海外への派兵問題など、とても高度な時事的、社会的な問題を例としてあげています。

しかし、有名予備校の先生や市販されている過去問の解答例のような、素晴らしい解答を目指す必要はありません。

『具体例を交えて論じなさい』という出題の仕方は、受験生にとっては脅威を感じる出題形式です。
具体例、というものが、とても重く感じられるのではないでしょうか。

しかしこの題意は、具体例に重点がおかれているのではありません。
あなたの論じる内容が、説得力があるかどうか、ということに重点がおかれているのだと思います。

説得するために、何か、具体例を使いなさい、ということなのです。そしてその具体例は、課題文で説明されている抵抗権を理解した上で、何か考えてくれれば良い、ということなのです。

模範解答に出てくるような高度な例が思い浮かび、その知識も充分にあるのなら、それを使用すれば良いのです。

ですから、日頃の問題意識が大切になってくるのですが、受験生にとって、時事問題などはとても苦手なことではないでしょうか。
やることが多過ぎて、そんな出るか出ないかわからないものに時間はかけていられないし、なんの興味も湧かないことが普通だと思います。

でも、小論文には解答しなければいけません。
では、どうするのか。

こういう場合、知らない例やあやふやな知識でしか語れない例を出すと、採点者は大学の先生という、特別な専門家ですから、すぐに見破られてしまいます。

ですので、身近な例を使うしかありません。
そんなこと言ったって、抵抗権なんていう例はあるわけないじゃないか、と言うかもしれません。

身近な例というのは、例えばこういうことです、
歴史の中に探してみるとか、学校の校則に関することだとか、そんな身の周りの、小さなことで良いのです。
抽象的な説明だとわかりにくいから、わかりやすいように例をあげて説明することが問題の主旨であり、例が大事なのではなく、論述をわかりやすくすればよいのです。

身近な例を使うことは下らない例かもしれませんが、小論文に対しての背景知識という見えない亡霊のようなものに脅かされ、なんの対策もしないとか、本番で手が出ないなどということよりは、遥かに有効な手段だと思います。

背景知識はあれば有利になるかもしれませんが、求められているのは、小論文では読解力と説得するための思考力と表現力だと思います。
そして英文や国語の現代文では、読解力が主要なものでしょう。

背景知識という亡霊に怯えないで、精力的に過去問対策をやって頂きたいと思います。