必殺のとき~これは難しい、難問だ、不可能だと言って挑まぬ受験生に前進はあり得ない | 最強最後の十年を望む

必殺のとき~これは難しい、難問だ、不可能だと言って挑まぬ受験生に前進はあり得ない

※※※以下は、私が本格的な仮面浪人を決断したことについての思い出です。決断に加速がついたのは初秋の季節で、独り熱くなったことを毎年思い出します。時間がある方は、私の思い出にお付き合い下さい。以前書いた内容を補足改訂したものです。※※※


『ジャヌーが霧の中からついに現れると、私達は恐ろしいその山容を前にして唖然としたままだった』

『恐ろしい懸垂氷河と、雪をまとった切り立つ岩壁だけだ。ジャヌーは2500メートルにわたり、頂きから直下へと、たった一本の岩柱となって落下している。地球上最大の壁の一つだ。ここを通っては誰も登ることはできないだろう』

ヒマラヤの鋭鋒、又は、怪峰とも呼ばれて恐れられたジャヌーという山を見ての、フランスのトップクライマーの感想です。

以下の本は、『ジャヌー北面のすさまじい断崖ほど、登攀の絶望的なものはない』と世界の一流クライマーが恐れて近づかなかった、その北壁を初登攀した日本人の登山記録です。
 

 

8000メートル以上の巨峰があらかた登頂されても、この7710メートルの山に挑戦を表明する隊はなかったのです。

しかし、やがてフランス隊が世界最強とも言えるメンバーを送り込み、2度にわたる挑戦の末、南西稜から初登頂を果たします。

そして、最大の課題とされる北壁からの登頂は、七十年代当時の登山後進国であった日本隊が成し遂げます。

北半球にある山の北斜面、つまり北壁は陽当たりが少なく、北風に吹きまくられて険しい岩壁となり、気温も低く雪が凍り付いて、登るには非常に困難な条件となります。

そのため、多くの山の北壁は最後まで未登のまま取り残され、初登頂から何年か後になってやっと登られることが少なくありません。

ジャヌー北壁を狙う日本隊の、当時無名に近かった山岳会のリーダーは、次の様に宣言して挑戦を開始します。

『山を見、これは難しい、危険だ、不可能だと言って挑まぬアルピニストに前進はあり得ない。困難を克服し、不可能を可能にしてゆく研究と努力こそ、アルピニストの能力を高める源となり、この努力こそ登山の真髄である』

そう確信し、国内の山を訓練の場として、国内の山岳を初登攀して互いに争っている他の山岳会を横目に、彼等は世界を見つめて厳しい訓練に明け暮れ、やがてヨーロッパアルプスのマッターホルン北壁に挑戦します。

国内の未踏の岩壁を争って登っていた国内のトップクライマーからは、実力も実績も無い山岳会が寝言を言うなと批判されながらも、彼等は自分達の信ずるトレーニングをこなし、マッターホルン北壁の冬期登攀第3登を成し遂げます。

世界で3番目の快挙です。

その後、アイガー、グランドジョラスの北壁をも冬期登攀し、実力がついたことを知ると、ヒマラヤの高峰に照準を合わせます。

マッターホルン北壁、アイガー北壁、グランドジョラス北壁

これらはヨーロッパ三大北壁と呼ばれ、当時、冬期に登ることが課題とされていた登攀ルートです。今でも、これらの北壁を冬期に登攀するには、かなりの覚悟と準備がいります。

彼等はヒマラヤの高峰を目的として、国内の山岳、そしてこの三大北壁登攀を実践してきたのです。

彼等のジャヌー北壁計画を知ると、ろくにヒマラヤも登ったことのない会には無理だとか、ヨーロッパアルプスには通用しても、高さが倍もあるヒマラヤでは不可能だとか、いろいろと批判する者が多数いました。

なにしろ、フランスやイギリスなど世界の一流登山家が恐れて近づいていない、ジャヌーの北面からの攻撃計画なのです。

一般的に考えるならば、無謀と判断することが常識的な判断だったでしょう。

しかも彼等の計画は無酸素登頂なのです。初登頂のフランス隊でさえ、酸素を使用していたのにです。

当時の批判者を笑うことはできません。

しかし彼等には自信と根拠がありました。

国内の山岳を目標とはしないで、トレーニングの場として捉え、それをヨーロッパアルプスにまで拡張して、ヒマラヤに照準を合わせていたのです。

寒さ、ルートの長さだけでも、ヒマラヤの山と日本の山とでは比較になりません。

このため、日本の冬の山岳を登るのに、わざと遠くの山から入り、長大な山岳を縦走し乗り越えて目的の山を登ったり、吹き曝しの稜線で簡易テントだけで過ごしたり、或いは、素手で氷の岩を登ったりしたのです。

彼等には先を見通す目と、過酷な訓練、そして十分な勝算がありました。

偏差値や過去問を見て、これは難しい、難関だ、不可能だと言っているだけではいけないと、受験生の頃の私を鼓舞してくれた登攀準備とその記録でした。

私の過去の成績や底辺に近い高校での劣等生ぶりを知っているものから見るならば、私が密かに狙っている大学になんか入れっこないと思ったでしょう。

私も内心ではそう思っていました。

しかも、大学に入って二年になっている時期の仮面浪人への決断なのです。

客観的に考えるのなら、バカもいい加減にシロ、というような愚行に違いありません。

しかし、これは難しい、難問だ、不可能だと言って挑まぬ受験生に前進はあり得ないでしょう。

ジャヌー北壁に挑戦した彼等と同様、私も白雲なびく駿河台から三田の山へ、困難な北面からのルートで登頂を狙うことに決したのです。

彼等がやったように、先を見据えて困難を織り込んだ受験勉強をすれば良いと知ったからです。

合格する、という決断をゆるぎないものとして、ただ突き進むのみです。

合格できるのか、可能なのか、という自信が無ければ、なかなかできないことです。

その可能性を彼等から示唆されました。

あとは自分を信じて突き進むだけです。



※余談ですが、入試英文には心理学の実験用語が出てくることがあります。良かったら参考にしてみて下さい。
入試英語長文に出てくる心理学実験用語など