ラルコ博物館とは
わたしが大好きなラルコ博物館であるが、そもそもラルコ博物館とは古代アンデスの研究を行ったラファエル・ラルコ・ホイレが建てた博物館であり、アンデスの土器や金銀製品、装身具などが展示されている。
建物はとても大きいわけではないが、個々の展示物にわかりやすく多言語での説明があり(日本語もある!)、美しく整理された展示は何時間いても飽きないどころか、何日通ってもまったく時間が足りないほど見応えがある。
展示はペルー南部から北部、海岸地域から山岳地域と代表的な文化を網羅しており、なかでもモチェ文化の土器のコレクションは特に優れている。
モチェ文化は人をかたどった肖像土器が特徴的であるほか、生贄の儀式の場面を描いた土器もあって話は尽きないので、いずれまたモチェについてはまとめたいと思う。
この博物館にはこうした本館の展示とは別に、エロティック・ギャラリーが併設されている。
おっとここから先は18歳未満の方は閲覧を控えていただきたい。
エロティックな土器
アンデス世界の土器には性をテーマにした造形も多々見られ、そうした土器のみを集めた稀有な展示室がこのラルコ博物館にはある。
エロティック・ギャラリーに入るとツアーの団体客がすでにおり、ガイドが
「さあ、この展示こそわたしの説明が必要な場所です!」
と言うと、中年の男女からなる参加者はこぞって「フー!」だの何だの騒ぎ、あらやだホホホ、といった空気であった。
その様子を見ながらわたしはこの土器たちを前にして「フー!」な気分ではないことに気づいた。
いや、土器のおもしろさには興奮しているが、たとえば後ろからしていたり口でしていたり骸骨が自分でしたりしているのを見ても、
「これはきっと地下世界の死者たちも性的能力を保持していて、地上の豊穣を祈念しているのではあるまいか」
などといった分析をしている。
以前訪れたときはわたしももっと、
「お、おお……」
と土器の描写の刺激の強さにおそれおののいた記憶がある。
おそらくこうした土器を見慣れたせいであろうが、そうでなければわたしは30代半ばにしてすでに性的羞恥心をすっかりなくし、つまり枯れてしまったということであろうか。
それはそれでショックであり、無理にでも「きゃーエッチ、土器のばかッ♡」と思おうとしたが、見れば見るほどアンデスの精神世界はやはりおもしろいなぁと思うばかりだった。
同様に夫もあまり興奮している様子はなかったので、夫もさまざまな意味ですっかり不毛なのだと思う。
もしや、まさか、これは
ラルコ博物館は何度来てもおもしろい。
後ろ髪をひっつかまれるような思いであるが、暗くなる前に宿に帰らねばならぬ。
わたしは最後にもう一度ミュージアムショップをのぞいた。
そして博物館の図録ではないが、アンデスの土器の写真が多数掲載された本があったため、「この本の英語版はないか」と店員に聞きに行った。
店員はスペイン語版しかないと答え、じゃあスペイン語でいいか、がんばれば解読できるだろうと買いかけたとき、レジのガラス板の下に一冊の本が見えた。
こ、これはもしや……?
おそるおそるわたしはたずねた。
「えっと……これは、この博物館の図録ですか?」
「そうです。でも英語版は来月末にならないと入荷しないの。
日本語版とドイツ語版はあるけど」
おおお……おおお………おおおおおおおおオオオ!!!!!
に、日本語版で!!
日本語版でぜひ!!!
どうやら英語版やスペイン語版が増刷中のため図録を棚から引き上げていたようだが、それならそうと早く言ってくれ。
わたしは値段を見ずにカードをきり、バックパックを圧迫するであろう重さの本を抱えた。
この図録さえあれば、ページをめくりさえすれば、わたしはこれからいつでもこの博物館を再訪できるのである。
生きていてよかった。
わたしが8年求め続けた夢の図録が、今手中にあるのだった。
*ラルコ博物館 性に関する土器*
本当はもっと際どいのがあるのだが、夫が
「こんなん載せたら規制されるで」
と脅してくるので、ここでは穏当なものを載せておく。
興味のある友人には直接解説付きで開陳したい。
以下はモチェ文化に属する土器である。
(残念ながら夫よりも土器のほうがはるかに積極性がある)
(地下世界の住人である死者と女性。
器の側面の階段模様や副葬品として描かれた複数の器から、死者の世界の出来事と推測されるそうだ。
性的な営みが生者の世界だけに限定されず、地下世界と地上世界が行為を通じて結ばれている点が、アンデスの世界観の広がりを示していておもしろいと思う)
(動物の交尾も表現される。
他にもシカやネズミがあった)
(いやん)