海辺の現代美術館
サンタンデールはカンタブリア州の中心都市であるので、当然ミュージアムもあるだろうと期待していたらやはりあった。
わたしは2か所ピックアップし、サンタンデールに着いた日とその翌日で1か所ずつまわった。
まずはセントロ・ボティンという現代美術館。
ここはビルバオのグッゲンハイム美術館同様、建物自体が目をひく。
白い箱が、ニョっと伸びた柱の上にのっかっている。
それが海を背景にたたずんでおり、近未来的な雰囲気を醸し出している。
設計はイタリア出身のレンゾ・ピアノ。
東京にも彼の手によるビルがあるらしく、気づかぬうちに何度も見ていたに違いない。
日本では意識しないことに対して外国ではやたら興味が出てくるというのは、旅においてよくあることである。
さて、その中ではインドのアーティストShilpa Guptaによる展示が行われていた。
天井から吊るされたランプとマイクが自動的に動き、歌が聞こえてくる暗い空間。
扇風機によってページが絶えずめくられる地図のようなものが書かれた本。
刺繍によって表された縮尺つきのフェンス。
《I LIVE UNDER YOUR SKY TOO》という展示タイトルが徐々に説得力を帯びてくる。
海が一望できる展示室は、国境や紛争などの存在をけちらすような解放感。
だからこそこの展示は、この美術館でやる意味がある。
思いがけず心に残る展示になった。
カンタブリア考古学博物館
わたしがサンタンデールに2泊しようと決めたのは、その2日後到着予定のサンティジャナ・デル・マルという町の、博物館の開館日に合わせるためである。
サンティジャナ・デル・マルというのはアルタミラ洞窟最寄りの町である。
そこには有名な洞窟壁画があるのだ。
その洞窟壁画をより楽しむため州都の考古学博物館に出向いたわけだが、シンプルだがモダンな見せ方で、わかりやすい映像を用いた非常に楽しい博物館であった。
特に目を見張ったのはカンタブリア各地の洞窟で発見された、動物の骨やツノにほどこされたアートである。
バイソンなどが線刻された持ち運び可能な小さなアート。
大昔の作品がずらりとならび、アルタミラ以外にも興味深い洞窟が多々あるのだと知った。
わたしは興奮のあまり
え? バックパックは軽量が命? 円安がどうしたって?
という大胆な気分になり、カンタブリアの10の洞窟が紹介されている本を買った。
「この本の重さは情報の重さ。
歴史の重さやわ」
と夫に言うと、
「どう考えても物理的な重さやで」
と返してきたが、それは夫の気のせいであるやれやれ。
そしてその本を見ながら巡礼路のルート上でアルタミラ洞窟以外に行けそうな場所がないか地図と照らし合わせた。
残念ながらルート近くに代表的な洞窟はあまりなさそうであったが、それでも洞窟壁画が存在している地域を歩いているのだと思うと、
ああやはり来てよかった、《北の道》にして正解だった、だって洞窟があるのだもの!
という前向きな気分になった。
この調子で円安による心の不況に歯止めをかけたい。
サンタンデールではそのほかクレデンシャル(巡礼スタンプ帳)を買いに大聖堂に行った。
すると巡礼者はタダで大聖堂内部を見られるというので一応見てみることにした。
わたしは宗教的な建造物としてはイスラムのモスクが好きである。
幾何学模様は感動するほど精緻だし、偶像がないため、チベット仏教の地獄絵図やはりつけのキリスト像などの流血ざたを見ずにすむからだ。
しかしカストロ・ウニダーレスのフライングバットレス(飛梁)のように、でっかくて高い建物をどうやって成り立たせているのかという点において、大聖堂や教会も気になっている。
残念ながら建築について語れることは未だないが、サンタンデールの大聖堂ではメインスペースの下部にも礼拝所があったり、よく見ると柱にユーモラスな顔がたくさんついていたりして、教会もけっこう愉快な場所なのかもしれないと思う。
イマジネーションが結集した感じがビシビシする。
このようにサンタンデールでは観光らしい観光をした。
その間に左ひざの痛みや手のあかぎれも少しは治り、気持ちも新たに、歴史の重みが加わったバックパックを背負ってまた歩き始めたのだった。
*セントロ・ボティン*
*カンタブリア考古学博物館*
(動物の顔がうっすら線刻されている)