グデ市場でコーヒーを
豆腐スイーツを屋台で食べたあと、目当てのグデ市場に向かう。
市場は複数の棟があるようで、野菜など生鮮食品を扱う場所と、食堂が集まる場所がある。
食堂エリアの2階でバクソという肉団子スープと汁なしそぼろ麺の昼食をとったあと、同じ棟内のコーヒー屋に入った。
カフェというよりコーヒースタンドの、道路を見下ろす狭い席。
わたしはいつものようにフィルターコーヒーをアイスで、夫はパームシュガー入りのラテを注文。
「標高の高いところでとれた、フルーティーなコーヒー」と教わったスラウェシ島の豆は酸味と甘みとコクがあり、黒糖の味と香りがした。
夫のパームシュガー入りラテも甘いけれど甘ったるくはなく、おいしい。
店からはカーペンターズの《yesterday once more》が流れてくる。
なぜかカーペンターズの曲はコーヒーに合う。
いずれ夫とどこかに定住したらコーヒーで晩酌したいと思っているが、その際には静かにカーペンターズを聴きたいものだ。
にぎやかな道路を見下ろしながら飲む市場のコーヒーは、入り込む風や音楽と相まって軽やかな味がしたのだった。
アラブ料理レストランにて
投宿していたソロの宿は、手頃な値段と雰囲気のある内装で大変満足のいくところであった。
その宿のスタッフの男性は、バスチケットを買いにバイクで連れて行ってくれるなどかなり面倒見がよいが、やや押しが強いタイプであった。
押されると避けたくなるわたしはインドネシア観光のオススメは全て聞き流したが、
「ここは本当にうまい、マジでうまい」
と何度も強調された宿の近くのレストランだけは素直に行くことにした。
そこはインドネシア料理ではなく、アラブ料理専門店であった。
ややいぶかりながら、見慣れぬメニューの中からビリヤニとケバブを注文。
すると予想以上に豪華てんこもりな皿が運ばれてきたではないか。
ビリヤニのご飯は黄色く細長い米で、ニンジンとレーズンが入っている。
スプーンで崩すとスターアニス、クローブ、カルダモンといったスパイスが出てくる。
少し辛いそのご飯を肉と一緒に食べると、異国の味が口の中に広がる。
ビリヤニは今回の旅で何度か注文したが、ここのが一番おいしい。
ピタパンにはさんで食べるケバブも、ブリブリと弾力のある肉団子にパセリを効かせた野菜マリネがついておりなんともうまい。
この肉はトルコで食べた「キョフテ」ではなかろうか。
あまりにうまかったので翌日も翌々日も通ったその店であったが、そのときには「ファラフェルサンドイッチ」を注文した。
ファラフェルとは豆のコロッケであるらしく、衣がザクザクとしていて食感がいい。
わたしがファラフェルを注文したのは、この料理をトルコで食べたことを思い出したからだ。
昨年の秋トルコを旅していた際入った、コンヤという町の食堂。
その食堂にはアラビア語のメニューがあり、当然さっぱり読めないわれわれは身振り手振りで注文し昼食をとった。
その店の店主は、携帯電話の翻訳機能で「自分はシリアから来た」と言っていた。
相手はみなトルコ人であると無意識のうちに思っていたが、当然移民も多い。
そしてシリアからの移民であれば、紛争から逃れてきたのかな……と想像してしまう。
おじさんは「これも食ってみろ」と言って、小さなドーナツ状のものを出してくれた。
それはザクザクとした食感で、「ファラフェル」という名前の食べ物だと教わった。
アジア人の観光客がわざわざ来るような店ではなさそうだったので、われわれは珍しい存在だったのだろうが、自分の名を名乗り、どこから来たのかを教えてくれたおじさんの店をふと懐かしく思った。
トルコもインドネシアもシリアもイスラムの国であり、宗教という共通点はあるものの、インドネシアはその気候から「東南アジアの国」というのが一番先に頭に浮かぶ。
ベールをかぶっている女性は多いが、それでもインドネシアはフィリピンやマレーシアと同じ文化圏にあると感じさせる。
しかしファラフェルというアラブのコロッケのザクザクとした食感は、インドネシアにいながらトルコの食堂の記憶を呼び起こした。
そして行ったことのないシリアにまで思いをめぐらせることになったのだった。
(グデ市場「Kedai Kopi Pakagus」のコーヒー)
(グデ市場の前の通り。
おそらく旧正月の飾りつけと思われるが、このカラフルな景色を見下ろしながらコーヒーを飲むと「アジアだなあ」という気分に浸れて楽しい)
(ソロのカフェ「Sekutu Kopi」でおやつ。
ちょっと高級なトラジャの豆を選んだ。
トラジャといえばユニークな埋葬方法が有名でありちょっと気になっている。
今回スラウェシ島には行かないが、コーヒーを通して旅ができた)
(「Zagladi Arabian Food」のチキンビリヤニ)
(同店のファラフェルサンドイッチ)
(トルコで食べたファラフェル。
あっさりしたマヨネーズのようなソースがかかっていた)
夫のインスタ⇩ 私が見逃しているものを夫は写真におさめておりくやしい。