短剣の好きなパーツ
バリ島の芸術の町ウブドでは絵画をたっぷり見ようと意気込んできたわたしであったが、このたび思いがけないアートな気づきがあったのでそれについて述べたい。
博物館ではよく武器のコーナーがあるが、これまでわたしは剣や銃の装飾にはさほど興味を持てなかった。
しかしである。
ネカ美術館にある短剣のコレクションルームはほぼ一室が短剣で埋め尽くされており、当初は
「武器か、暑いしまあ流し見でいいか」
と思って不真面目な態度で徘徊していたが、だんだんと
「今まで気付かなかったがこれはたいへんおもしろいのではないか……」
と思い始めたのである。
なぜそう思ったかというと、まずは同じくウブドのプリ•ルキサン美術館にあるこの絵を見ていただきたい。
中心は仮面であるが、今注目すべきはその下部である。
拡大すると、
これ。
美しい剣が描かれており、その持ち手部分に人型の彫刻。
剣をおさめる入れ物の装飾も凝っている。
こうした短剣や長剣は東南アジアで重要なアイテムであり、実はこれまでに訪れたインドネシアや他の国の美術館でも展示されていた。
握ったら痛そうだと思いながら見ていた覚えがある。
ところがウブドのネカ美術館ではこれら2つのポイントに加え、ケースから抜き出た部分が大きく着目されている。
剣身の持ち手に近い部分にほどこされている装飾が、とてもよく見えるように展示されていたのである。
では剣を抜いてみると、ほら。
この写真にあるように、一本の剣に持ち手、ケース、剣身、3つの装飾チェックポイントがあらわれる。
これらのどこにひかれるかというのは、昭和であれば御三家や新御三家の誰が好きか、というような個人の好みによるところであろう。
人によってはこのように、
柄の部分がとってもキュート、と思うかもしれない。
しかしわたしは断然、
剣身の付け根が推しである。
なぜケースや持ち手ではなくこの部分かというと、ボロブドゥール遺跡でも堪能した「二次元と三次元のはざま」、浮き彫りがけっこう好きだということと関連があるかもしれない。
ほどよい立体感が好みなのである。
というわけで、ネカ美術館の短剣コレクションの中から厳選したイチ押しの装飾をご覧にいれたい。
(表情がはっきりしているうえに、左側の植物文様が上品)
(ウエディングドレスのように剣がたなびいている。
そしてギリシャ神話のような雰囲気のあるデザイン)
(左右にゾウ、しかし非対称)
(こちらはゾウと爬虫類? のコラボレーション)
(これはゾウとヘビが同じ側にあり、しかもヘビの身体が中央を通って上がっていくさまが見事。
言い忘れたがこの短剣は「クリス」といい、先祖から受け継いでゆくもので、武器としてだけでなくスピリチュアルな価値も持つ。
このような凝った装飾からも、御守りであり宝なのであろうと納得がいく)