ストリートフード天国
フィリピンとはストリートフードが充実した国である。
そこらへんの路上にたくさんのワゴンや屋台がありどれも安価。
わたしが旅してきたなかでは、屈指のストリートフード大国である。
一番多く見かけたのはねりもの屋台だ。
ねりもの屋台ではチキンや魚のすり身を丸めた歯応えのあるだんごや、オレンジ色の生地の中にうずらの卵が入っているものなどが定番である。
これをプラスチックのカップに入れて渡されるので、周りの人にならって細かく刻んだキュウリやビネガーなどを自分でどばどばかけ、そのへんで立って食う。
生地に酸味がくわわり、予想外の方向にうまくなるのでやみつきになった。
砂糖で揚げたバナナなど、スイーツ系も頻繁に目にする。
バギオの市場近くでは小さな店舗に行列ができており、何の屋台かとわたしも並んでみることにした。
それはBinatogというスイーツで、白くて丸い何かが蒸され、そこに砂糖とココナッツミルクをぶっかけたものであった。
味はトウモロコシと豆の中間のよう。
色は白だが形と食感はひよこ豆に似ている。
この素朴なミルク味が忘れられず翌日も食べに行った。
そのほかにもココナッツ水であったり串焼きバーベキューであったり、周りを見渡せば何かしら軽食のワゴンがある。
ただしマニラの高級な地区では屋台があまり見つからず、
「なんだよみんな店舗持ちやがって、外で食わせろ、外で!」
というやさぐれた気持ちになったが、おおむねどこの町でもちょっと小腹がすいたときにすぐに食べ物にアクセスできる。
観光の合間に屋台を探し、新たなお気に入りストリートフードを探すのを楽しんだ。
そんなストリートフード生活であったが、最初は違和感も感じていた。
ストリートフードは遠慮なくプラスチックを使用し、潔く捨てる。
町のそこらじゅうにプラスチックカップがたまったゴミ袋があるのを見て、
おお……
と衝撃を受けた。
洗えば何度か使えそうなカップがどんどん捨てられてゆくのが、感覚的に「え、いいの?」と思ってしまったのだ。
その感覚の原因はおそらく、かつてワーキングホリデーで滞在していたオーストラリアにある。
オーストラリアはレジ袋は有料、コーヒーはマイカップで、小さな町にもリサイクルショップ、という徹底したエコ路線の国であった。
長期滞在の間にエコに関して「意識高い系」の感覚が、わたしにも浸透していたのだと思われる。
(ただしオーストラリアの環境保全への取り組みは「意識の高さ」というよりも、現実的な対応の必要性による部分が大きいのではないかとわたしは思う。
オーストラリアは日差しが非常に強く、皮膚がんも多い。
オゾン層破壊は文字通り死活問題なのである。)
そのためフィリピン滞在の当初は、目の前にある大量のプラごみをオーストラリアの人々が目の当たりにしたら眉をひそめるのではないか、という余計な心配までしてしまったのであるが、慣れとは怖いもので、フィリピン生活が終わるころには「もったいないけど、そういうもの」という感覚になっていた。
それはフィリピンに限ったことではなく、ストリートフードにつきものの光景ではあるが、ただ世界とはこのように近くの国同士でもまったく違う方向に進んでいるんだなあ……ということを妙に考えさせられたのだった。
(バギオ、市場の近くの壁画スポット。
大通りの向こうに壁画が見え、
「暑いし横断歩道まで歩くのめんどくさいしどーしよっかな」
と逡巡したが、結局写真を撮りに行った。
遠回りしたかいがあった。
たいてい市場には安価な食べ物屋台や果物屋が密集しているため、土産や服を買いたいわけじゃなくてもとりあえず行くことにしている)
(食べたものの写真を載せたかったが、一人旅期間中は
「カメラ出すからちょっとコレ持って」
と言える相手がいないので、立ち食いスピード勝負のストリートフードの写真はあまり撮れなかった)