「天国への階段」
フィリピン、マニラを出てバギオまで北上。
さらにそこから夜行バスでルソン島中部を進み、バナウェへと向かう。
バナウェは田舎町であるが、ここには世界遺産に登録された観光資源がある。
「天国への階段」と呼ばれるライステラス。
つまり棚田である。
先住民族であるイフガオ族は、はるか昔から儀礼や伝統とともに棚田を受け継いできたらしい。
これまでさんざん見たキュートな穀倉人形「ブルル」はイフガオ族のものであり、この土地の文化や習慣は米と結びついている。
バナウェに来る観光客は当然棚田が目当てであり、わたしにしても「ブルル」をはじめ米作りに関連した博物館での展示を期待していた。
宿のおばさんには連日、
「トライシクル(三輪タクシー)でここまで行ってみたらいい。
ライステラス(棚田)がよく見える」
「今日はどこに行くの? バタッド•ライステラスはもう行った?」
と声をかけられた。
わたしは棚田がけっこう好きである。
手付かずの大自然も全くの人工物もあまり惹かれないわたしにとって、棚田というのは適度に人の手が加わったちょうどよい自然である。
しかしわたしには乗り物の値段交渉や、ツアーに付随するガイドとの会話や出費がおっくうになるという悪癖がある。
よって宿のおばさんのアドバイスは聞き流し、有名な棚田はまあいいやということで、徒歩で歩ける範囲(宿から5キロ圏内くらい)の棚田ビューポイントにだけ足をのばして満足した。
そのあとは博物館を目指してひたすら歩きまくるといういつもの観光パターンである。
そしてわかったことがあるので、声を大にして言う。
拡声器を使いたいくらいの気持ちで言う。
バナウェの本当の観光資源は棚田じゃない。
棚田じゃないんだ……!!
かってにバナウェ観光案内
「地球の歩き方」も宿の人もこの事実に気づいていないのであろうか。
バナウェは町じゅうがアートである。
あまりに棚田以外の観光情報が出てこないので「この町並みはわたしにしか見えていない幻なのか」と疑いたくなるが、それほど町自体が魅力的なのだ。
宿から見下ろす棚田はとても美しく、棚田を見下ろしながら飲むコーヒーはいつも以上においしく感じるが、それでもあえて言う。
棚田見に行くのは半日くらいにして、あとは町を歩きませんか。
わたしは今から勝手にバナウェの観光案内をする。
棚田の写真など1枚も載せるものか。
有名な棚田を見ていないわたしが言うのも説得力に欠けるかもしれない。
しかし人には言わねばならぬときがあるのだ。
今回は町のいたるところに現れるアートなオブジェや風景を、後編では建物を中心に紹介する。
バナウェという、でっかい野外博物館。
さあ探検に出発しよう。
(タイヤとペットボトルを使ったオブジェが、宿から町の中心まで下る一本道の途中に何か所もある。
アートの本質はきっと、高い材料で高尚なテーマを扱うことではない。
身近にあるものだけでも、風景に愉快な変化を与えることができるのだ)
(そこらへんにたくさん走っているトライシクルもカラフルで、山々や棚田の緑に映える)
(歩いていていきなり現れるこれは何だ。
わからないが、バナウェ的インスタレーションであると受け取った)
(町の中心部近く)
(近づくとこうなる)
(ピンクの廃車がふっと存在している)
(よく見ると馬がいる。
きっと「なぜ?」などと考てはいけない)
(木のスクーター。
木工の技術が受け継がれてゆく)
(渡る気にはなれないが絵になる吊り橋)
(販売されている鶏たちの上に植物がたくさんあるのもなんとなくアート。
どことなくアート)
(もちろん博物館はアートのかたまり。
バナウェ・ヘリテージ博物館は入った瞬間「おお……天国。」と思うほどのコレクション。
この地域の木製品が所狭しと並んでおり、一日中見ていたくなる。
訪問者が来たときだけ博物館を開ける方式であるため、唯一の訪問者であるわたしがいる限り係員がずっと近くにいるという事態にプレッシャーを感じ、じっくり見られなかったのが心残り)
(同博物館の展示品。
マニラやバギオの博物館であまり見られないタイプの木製品も多く、「ブルル」ファン必見である)