スリランカカレーの原則
たとえば英語を勉強するとき、アルファベットを使うとか語順が違うとか、日本語の常識をいったんなかったことにして新たな概念を受け入れる必要があるが、それと同じような発想の転換がスリランカカレーを理解するうえでも必要である。
日本での一般的なカレーとは「タマネギ、じゃがいも、ニンジン、肉などを入れて煮込む様々な具が一つの大鍋に入った料理」であり、
「ちょっと時間はかかるけど、これ一品で夕食は決まり」
というしろものではなかろうか。
しかしこの写真を見ていただきたい。
これがスリランカのカレーである。
(ヌワラ•エリヤの宿の夕食。2人前とは思えないが完食)
日本のカレーとの違いを分析すると下記のようになる。
まず一度に出てくるカレーの種類が多い。
宿やレストランでは観光客用に種類を多くしている場合もあるが、家庭でも1回に2、3種類くらいは作るのではないか。
次に1カレーにつき具はひとつである。
どのカレーにもタマネギ、トマトは少量含まれているがメインの具はひとつ。
豆なら豆、じゃがいもならじゃがいもと別々に調理し、それぞれ独立した皿に入れる。
野菜数種が一緒になったものも食べたことがあるが、基本的に1カレー1種類が原則である。
そしてカレー群を構成するのは肉か魚のカレー1種(ない場合も多い)、野菜カレー数種、ココナッツ和え物、チップス(パパダンという)などであり、煮込まず炒めたものも含まれている。
別々に作ったけど最終的に混ぜることに対し当初は
「最初から大鍋一つにぜんぶブチ込めばいいじゃんめんどくさい」
と思ったが、具材ごとに煮込み時間を変えることで、個々の食材がベストな食感で提供されている。
また味付けや辛さについてもオクラはチリと一緒に、ダル(レンズ豆)やカボチャはチリ抜きでというように、具材ごとに変化をつけている場合もあった。
花も果実もカレーの具
酢豚にパイナップルを入れるかどうかという問題に対し、わたしは肯定派、夫は否定派である。
「パイナップル、いらんやん」
などと平然と言ってのける夫は、ピザに乗ってるパイナップルや豚肉のソテーのりんごの付け合わせなどにもいちいち否定的である。
酸味と甘味が肉と合わさる複雑なうまさを理解できず、味覚もハゲているのであろう。
スリランカカレーはパイナップル肯定派にとって有利である。
果物も立派にカレーの具材になっているからだ。
たとえばほのかな酸味のマンゴーは定番の具のひとつ。
そして料理用バナナ、ジャックフルーツ。
ジャックフルーツはホクホクしていてなぜかイモ系の味がする。
バナナは花まで具材になっており、スーパーで売っているのも見かけた。
野菜はオクラ、じゃがいも、カボチャ、ロングビーンズ(インゲンに似ている)、キャベツ、ナスなどがある。
キュウリも具材になっていた。
ちなみにキュウリは現地語で「ピッピンヤ」というらしく、思いがけずキュウリのかわいらしい一面を知った。
ほかにもレンズ豆やひよこ豆などが使われていたし、マーカラとかワタコロとかスネイクとか、ハリーポッターに登場しそうな名前の未知の具材も多々あった。
……という、なんでもかんでもカレーになっているという話をいとこにしたところ、わがいとこは
「すごいカレーの包容力だね」
と言った。
確かにスリランカカレーはこの土地で手に入るあらゆる食材を受け入れて食卓にのっけてみせる、包容のメニューなのであった。
後編へ。
(食堂では好きな具を指さしてご飯によそってもらう形式がよくある)
(だんだん好みの具材がわかってきて似たようなのを注文してしまうが、辛さひとつとってもチリなのかブラックペッパーなのかなど、味はそれぞれ違う)