でも尻もちをついていたのは私だけで、優弥さんは中腰で何とかこらえ、それ以上二人が谷側に落ちないようにしていてくれた。
素晴らしい反射神経と体幹の持ち主
彼の上着を握りしめながらそう思った。
ちなみにこんな時でも私は、自分の体が触れないように極度に神経を張り巡らしている。
滑り落ちる時に少しだけ体がぶつかったけれど、ほんの一瞬だった。
とにかく平謝りして、その後すぐに二人で顔を向き合わせて大爆笑。
その後も軽口を叩き合いながら山を下って行くのだけれど、どんどん暗闇が濃くなり優弥さんの顔が判別出来なくなるほどにつれ、私の境界線が薄れつつあった。
実は途中で二回ほど、トレランをする人たちとすれ違ったのだが、優弥さんは率先して挨拶をし自分から話しかけたりもする。
相手は必ず一緒にいる私の姿も見るので、年齢のちぐはぐさに気がついてるかもしれない。
でもそんなこと彼には全く気にも留めていないらしく、前回の登山の帰りにも『今友達とすれ違った』と言って私を驚かせたが、彼だけは涼しい顔で『別にいいしょ』というスタンスなのだ。
そう、私だけまだ気にしてしまう。
無事に下山して、何となくまだ帰りたくないなという気持ちがお互いに通じ合い、さらに遠回りしてある箇所にまで足を伸ばす。
近所ということもあって道々の案内も、ある箇所での作法も熟知していて、その姿を見ながら追いながら私は身を任せていた。
でもとうとう彼の家の近くまで戻ってきた。
「今日は登山のお付き合いどうもありがとう。とっても楽しかった」
『自分がついて行きたかっただけですから。
……もう少しついて行ってもいいですか?』
ワンコめ。
はい、大丈夫ですと答えながら彼が可愛くて仕方がなかった。
そしてここから思わぬ急展開に入る。