今でも時々 あの時のことを思い出す

 

ヒューストンに二度目の長期出張

合弁会社にたった一人の日本人として派遣されていた時

今から40年以上も前の話である

 

愛する母の病状が悪化

ワイフから切羽詰まった電話が入った

帰国したいが会社はなかなか帰国の許可を出さない

 

会社を辞めてもいいとの気持ちで

独断で帰国決行

ヒューストン空港から飛行機に乗った

 

 

ヒューストンからまず

サンフランシスコまで飛び

飛行機を乗り換えて

そこから成田へ直行する

 

このサンフランシスコ行きのエアラインが

たまたまタイ航空であった

 

あれは比較的前の方の席だったか

私のほかに他の乗客は一人も見当たらなかった

 

やがて出発

数時間やることもない

ふと気が付くと

中国服によく似たスリムな制服に身を包んだ

キャビンアテンダントがじっとこちらを見ている

色は浅黒いがなかなかの美人である

この人ではありませんけど

 

煙草でも吸おうかと

ポケットから煙草を取り出すと

サッと飛んできてライターで火をつけてくれる

 

とにかく

身動きをするたびに彼女が飛んできて

何か御用でしょうか?

うかうか身動きもできない

 

ウイスキーの水割りを注文してチビチビと飲んで時間をすごす

あ~あ、こんな非常事態の帰国でなければな

もっと気さくに話をして

なにかいいことがあったかもしれない

 

今でもあのフライトで

私と彼女が二人っきりだったのが不思議である