石原慎太郎の生に対する執念

石原慎太郎の書物は多数読んでいるが、晩年のものは、やはり死に対する恐れと好奇心とがないまぜになって、死と対決しようとしているものの、やはり恐怖の方が勝っていると思う。本書は自分の死後、さらに夫人の死後に出版するように幻冬舎の見城社長に頼んであったとおり、死後に単行本として出版されたが、今回文庫化されたので飛びついて買い求めた。もともと自己顕示欲の非常に強い男だが、ここでも作家の有吉佐和子や女優の高峰三枝子に言い寄られたことを自慢げに書いている。

作家から政治家へ、国会議員から都知事へ。その溢れる才能と意欲ゆえに、女性関係もお盛んで、夫人以外にも3人の女性との色懺悔も隠すことなく書いている。こりゃ、夫人の死後でなきゃ出版できないわけだ。都知事の時には45才も年下、つまり二十台の女性と親密な関係を持っている。本書がなければ永遠に葬り去られた事実だ。

都知事としても煤だらだった東京の空気をクリーンにした「排ガス規制」、東京オリンピックの招致、築地の海産物市場の豊洲移転など、数々の目に見える実績をあげている。東京都の財政再建に複式簿記を導入したのは、石原が一橋大学で簿記会計を学んだこと後に花開いたものである。あの石原慎太郎が、家計を助けるためとはいえ公認会計士を目指して簿記会計を勉強していたとは!

驚いたことに,いまの政党「維新の会」の名付け親も石原慎太郎だという。政治家も引退して脳梗塞でよれよれになっているところを、小池百合子都知事に「豊洲土壌汚染」をやり玉にあげられ証人喚問までされたが、小池の悪口は一言も書いてない。やはり器の大きさが違う。最後は脳梗塞から膵臓癌で亡くなったが、膵臓がんのことは書いてない。2022年2月、89歳で亡くなる。本書は、まるで黎明期のアメリ映画、連続活劇を読むが如く、息もつかせぬ流れで一気に読み切った。面白い。

若いときはカッコよかった
 
 
 
弟の裕次郎は手の付けられない
暴れん坊だった
 
 
 
夫人の典子さん
夫の死後一カ月で自らも死す
ワンマン亭主に仕えるのは大変だったろう