はだしのゲン | QVOD TIBI HOC ALTERI

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Das ist ein Tagebuch...


 かなり以前の報道であるが、原爆漫画として有名な「はだしのゲン」の公立学校の図書室等での閲覧が禁止になったと聞いた。愚かな話である。日本兵が中国人を斬り殺したり、首をはねたりした描写があることについて、「事実を捻じ曲げている」「残酷すぎる、反日的だ、左翼的だ」「子供の見せるべきではない」といった胡散臭い抗議に押し切られたそうだ。

 しかし戦争中、日本兵がアジアで民間人を虐殺したのは事実である。この国の一部の人々は、事実を直視することができないらしい。先の戦争では、この国の軍隊は、「進出した」(侵略した)国々で多くの市民を虐殺したことも、婦女子を強姦し慰安婦にしたのも事実である。中国等を中心に、わが「精強なる」皇軍が、文字にできないほど無数の残酷で凶暴なことを行ったことも、事実である。その事実のごくわずかな部分を漫画で表現して、何がいけないのであろうか。醜いのはむしろ、そういった事実を認めない、事実を隠蔽しようとするこの国の人々の姿勢と、その精神的弱さではなかろうか。

 私見では、いちばん重要なことは、二度と過ちを繰り返さないことである。どう言い繕っても、あの戦争は明らかに、過ちであった。事実を隠蔽することで、そういった国ぐるみの過ちを抑止できるだろうか。私はそうは思わない。ありのままの事実を周知させる方が、愚行の抑止につながると思う。いわゆる「大東亜戦争」は、徹底的に愚かで、醜い戦争であったからである。それは戦争と言うよりも、単なる自国民と他国民の虐殺であった。その結果、日本は敗北し、国を失い、アメリカの属国となった。

 しかし、先の戦争の責任を隠蔽し、さらに新たな戦争を画策する輩は、戦争を美化しようとする。そして、戦争の醜い部分を隠そうとする。このことの方が、はるかに危険ではなかろうか。しかし、この国の指導層、それに少なくない国民が、そうは思っていないから、こういったことが起こるし、その結果として、この国は破滅に突き進んでいくのであろう。

 ちなみに、私の住む東京では、毎日どこかの路線で「人身事故」が起きる。その多くが、いわゆる「飛び込み自殺」である。今日も、私が乗ろうとした私鉄の列車がなかなか来ないので、何事かと思ったら、乗り入れ先の別の私鉄での「人身事故」の影響で遅延とのことだった。その旨のアナウンスがあると、隣にいた若いサラリーマン風の男が、「何故こんなときに飛び込むんだ。もっと迷惑のかからない時に死ねばよいのに!」と不機嫌そうに言っていた。これが東京という所である。人が自ら死を選んだのである。その人を思い遣る気持ちなど、ここには皆無なのである。

 この国は、大の大人で、しかも公人が、「中国はけしからん。アメリカに核攻撃してもらえ!」などと叫び、それに同調する馬鹿がいくらでも湧いて来る一方で、自分たちが被爆し、しかも放射性物質によって自分たちが日夜汚染され続けていることに気が付かないような、愚か者の巣窟でもある。人間性や常識、理性といったものが失われた、こんな国が滅びない方が、不思議というものである。