イギリスの国旗が見えてきた
この先は英国軍の占領地区
祖母が住む北部の港町・フーズムも
この占領地区に属する
長かったアメリカ地区も
今日で終わり - - -
と安堵したのも束の間
この先の通行は 固く禁止されていた
夜中に森を抜けよう
あそこなら警備も緩いはずだ
森ですって !?
あの森の一部はソ連軍の管轄
ソ連軍のドイツ人への憎悪は根深い
威嚇射撃なしで
急所を目掛けて撃ってくると聞いたわ
たとえ小さな子供でも - - -
注 : 当時の4国分割のマップです
私たちは何キロも歩いて
森の奥へと入って行った
ここまで来れば警備兵もいない
ここで暫く仮眠をとって
今夜の越境に備えねば
あなたの手の温もり
その暖かい指先が
私の頬を優しく撫でて
冷えた身体を温めていく
でも - - - それ以上のことは
何もしてくれない
抱いてほしいのに - - -
不安だから - - - 不安で堪らないから
あなたが
私をおいて 去って行きそうで - - -
食料を探してくる
戻るまで絶対に動くなよ
俺はギュンターにそう言って
食料を探しに出かけた
トーマス 戻って来るかな?
トーマスのことを
去って行った父のように慕うギュンター
この子も
私と同じことを考えていたのだ
もう彼が
帰って来ないんじゃないかと - - -
大丈夫よ ちゃんと帰って来るから
それまでお利口にして待っているのよ
私はギュンターを抱きしめた
そしてそれが - - -
弟との最期の会話になった
弟は寝ないで
じっとトーマスを待っていた
あの場所で - - -
トーマスが帰って来た!
弟はそう言って駆け出して行った
トーマス ここだよ!
駄目よ そっちに行っちゃ
危ないから戻って来て
物陰にはソ連兵が銃を構えて
不審者を狙い撃ちしようとしていた
弟は銃弾に倒れた
どうすることもできなかった
急所を撃たれて即死
一発の銃弾が弟の命を奪った
急に走り出したことが
ソ連兵の不審を買ったのだ
これ以上 ここにいると危険だ
奴らはまだ撃ってくる
背後からトーマスが戻って来た
弟が見た男は別人だった
弟の亡骸を置いて
ひたすら逃げるしかなかった
ギュンターが亡くなった
私の可愛い弟が - - -
一瞬にして
その幼い命を奪われたのだ
双子の兄のユルゲン
姉のリーゼル
私たち家族は
この苦しみを乗り越えられるだろうか?
その夜
無事に越境した
あの暗い森の中に - - -
たった一人
弟をおいて - - -
家族5人で始めた旅
その過酷な旅の終盤に
愛する弟を失うローレ
14歳の少女は
この旅を通して
敗戦という現実を知り
そして掛け替えのない
弟の死を
体験するのでした - - -
次回へと続きますね - - - ✨