祖母が住む北の港町を目指して
始めた旅だったが
この辺り一帯の鉄道は米軍に奪われ
歩くしか手立てはなかった
荷物は諦めて丘を登り
銃砲の跡が生々しい廃墟を見つけた
何か食料が残っているかもしれない
ここはフランス軍の占領地域
気をつけなければ - - -
食料は何も残ってはいなかった
鶏小屋の片隅に
フランス軍兵士に強姦され
その後 無惨にも殺された女性の亡き骸があった
何て酷いことをするの
これが - - - 敗戦の現実なんだわ
女は慰み者にされる
私たちは廃墟を後にして
川向こうの村で
食料を分けては貰えないかと尋ねてみた
母から渡されたお金を渡したが
卵を3つしか貰えなかった
これを5人で分けなければならない
火をおこす道具がなかったので
パンに浸して生で食べた
赤十字が運営する 避難所に辿り着いた
お願いです この子に母乳を上げて下さい
お礼はしますから
母が大切にしていたブローチが
ペーターのミルク代に消える
その様子をじっと見つめる男がいた
彼と眼が合った
淋しそうな横顔を持つ
とてもハンサムな青年✨
見つめられて
思わず - - - 俯いた
彼のことを好きになりそうだったから✨
建物の外に貼られた
連合軍が強制収容所を解放した時に
撮影された
ユダヤ人大量殺戮の証拠写真
ナチスドイツが
こんな恐ろしいことをしていたなんて - - -
父もこのことを知っていたのだろうか?
父はナチスの高官だった
知らない訳がないわ
社会から教えられ 信じていたものが
今は悪だと罵られ否定される
家族を欺き間違った教えを説いていた
父が許せない
あなたのせいで家族は散り散りよ
何も答えてはくれない
写真のなかの父
泣きながらその写真を - - -
土の中に埋めた
避難所を出て
再び家族5人の旅が続く
森の中であの青年に再会した
ここは米軍の占領地域
前方から
米軍のトラックが走って来る
私たちには通行証がない
占領下での旅行には許可がいるのだ
どうか止められませんように - - -
祈る気持ちで通過しようとしていた時
米兵にドイツ語で呼びとめられた
何処に行くんだ?
君の両親は一緒じゃないのか?
旅行には許可が必要だ
身分証を見せなさい
通行証がないことが判れば捕まってしまう
私は答えに戸惑った
どうしよう !?
兄のトーマスです
僕の身分証を見せます
あの青年が徐にそう言って
ポケットから身分証を取り出した
私たちを助けてくれたのだ
黄色い星 (ダビデの星)
ナチス占領下のヨーロッパの国々で
全ユダヤ人に
着用することを義務付けられた
腕章及びワッペン
それを彼が持っている - - -
この青年はユダヤ人だった
そこの君 こっちにおいで
米兵はリーゼルを呼んだ
この青年が本当の兄かどうか?
確かめるために - - -
このひとは誰だい?
- - - 兄です - - -
リーゼルが小さな声で
頼りなげに答えた
歩いて食料を探していたんですよ
腹の空かしたこの子たちのために
米軍兵士が納得するように
更にトーマスが念を押す
妹たちの身分証は?
失くしました - - -
アウシュビッツ絶滅強制収容所から
ブーヘンヴァルト強制収容所までの
死の行進の最中に - - -
注 : 死の行進とはドイツの敗戦が色濃くなった
大戦末期
西からは連合軍が東からはソ連軍が攻めてきて
強制収容所の発覚を恐れたナチスが
証拠隠滅のために強制収容所を取り壊して
囚人たちを徒歩でドイツ国内まで移動させた事件です
米軍が解放した
ブーヘンヴァルト強制収容所
その生々しい光景を
この米兵は思い出していたのかもしれない
彼の態度は軟化して - - -
軍用トラックに私たちを乗せて
安全な場所まで送ってくれた
ユダヤ人 この男がユダヤ人だなんて
どうりで嘘つきのはずだわ
嘘つきで汚らしいユダヤ人
そんなユダヤ人に 助けられた
何て情けないの
腕に彫られた認証番号
収容所で施された刺青なのだろう
やっぱり - - - ユダヤ人なのね
今夜は
ここで野宿をする
あなたが私を見つめる眼
その眼で見つめられると - - -
自制心を失いそうになる
汚らわしいのに - - -
何処かに消えてほしいのに - - -
私の心が - - -
こんなにも あなたを求めている - - -
あの時 - - -
出逢った時から - - - ✨
続く - - - ✨
避難所で
ハンサムなユダヤ人青年
トーマスと出会うローレ
彼女は一瞬のうちに心を奪われます✨
そのトーマスに助けられ
彼のことを拒否しながらも
彼に惹かれていく
ローレでした - - - ✨
次回も - - -
お楽しみに - - - ✨
出来るだけの下調べをして書きましたが
もし歴史的記述に間違いがあれば
この場をお借りしてお詫びします🙏
映美✨