中国故事に、「石に枕し、流れに漱(くちすす)ぐ」というところを「石に漱ぎ、流れに枕す」と言い間違えた男の話があって、夏目漱石の漱石がそれに由来することは、よく知られている


 これも言ってみれば、言い間違いに原因する事故である。二〇〇一年に静岡県上空で発生し、多数が負傷した日航機同士のニアミス。最高裁が先日、指示を誤った管制官ら二人に、刑事責任を認める決定を下した


 当時、管制官は、一方の航空機にすべき「降下」の指示を誤って他方の航空機にしてしまった。操縦士は、衝突防止装置(TCAS)の「上昇」の警告より管制官の指示を優先して、降下。すんでのところで回避はしたが、危うく衝突につながるところだった


 無論、多数の命を預かる職責を思えば管制官のミスの意味は重い。だが、管制業務は過密で「一日一回は言い間違いをする」と明かす管制官もいるほど。それに、何より、言い間違いとは縁を切れぬのが人間だ


 実際、この事故を機に、指示が矛盾した場合、操縦士は管制官でなくTCASに従うようルール化された。人間より機械の信用が上とは寂しいが、いたしかたない


 あの故事では、言い間違いを指摘された男は「流れを枕にするのは耳を洗うため、石に口をすすぐのは歯を磨くためだ」と言い張る。だが再発防止のためには、この手の強がりを言ってもいられない。


 中日春秋 2010年10月30日筆洗

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